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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)232号 判決 1955年12月20日

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

本件を名古屋簡易裁判所に差し戻す。

理由

弁護人双川喜文の上告趣意について。

所論は、判例違反を主張するけれども、その引用の判例は本件に適切でない。所論は名を判例違反に藉りその実質は被告人に本件自転車を不法領得する意思はなく他人をして自己に代ってこれを握持せしめたものであるにすぎないとして、原判決の事実誤認を主張するものであるから、上告適法の理由とならない。

しかしながら職権を以て調査するに、本件公訴事実は刑法二五二条一項の横領罪及び選択刑として罰金が定められている外国人登録法一八条一項七号一三条一項の罪であるから、いずれも簡易裁判所が第一審として管轄権を有することは裁判所法三三条一項二号の規定によって明らかであるが、簡易裁判所は同条二項によれば、同項但書所定の事件以外の事件については禁錮以上の刑を科することができないことになっており、又同条三項刑訴三三二条によれば、若しその制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは、事件を地方裁判所に移さなければならないことになっているのである。

しかるに本件第一審である名古屋簡易裁判所は(累犯加重の点を省略して説明すれば)、右但書に掲げられている横領罪と、これに掲げられていない外国人登録法違反罪とが併合罪の関係にあるとしながら、自ら右外国人登録法違反罪につき所定刑中敢て懲役刑を選択し、横領罪の懲役刑に併合加重した刑期範囲内において被告人を懲役八月に処したものであるから、本件第一審の判決は明らかに裁判所法の前示規定及び刑訴三三二条に違反したものというべく、同判決及びこれを看過して控訴を棄却した原判決は、刑訴四一一条一号により破棄を免れないものである。

よって同四一三条本文に従い全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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