最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2700号 決定 1956年6月19日
本籍
東京都大田区山王二丁目二二一〇番地
住居
市川市八幡町四丁目一二九七番地
繊維品販売業
嘉高こと
玉谷虎次郎
大正四年一二月二一日生
右窃盗被告事件について昭和二九年四月八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大森正樹の上告趣意第一点について。
窃盗既遂の時期は、その犯行当時の具体的な事情によつて左右されるのであつて、犯行場所の状況、物品の大小、時間関係等各事案の実況によつて差異を来たすのであるから、論旨引用の高等裁判所の判例はいずれも本件に適切でない。のみならず、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)六七五号同年一〇月二三日第二小法廷判決、昭和二三年(れ)一一三二号同年一二月二七日第一小法廷判決)は、いずれも不法領得の意思をもつて事実上他人の支配内にある物件を自己の支配内に移したときは、窃盗罪は既遂となるのであつて、必ずしも犯人がこれを自由に処分し得べき安全な位置におくことを必要としないとしており、これらの当裁判所の判例によれば、原判決が被告人の所為をもつて窃盗の既遂であるとした判断は相当であるから、所論は刑訴四〇五条三号所定の要件である「最高裁判所の判例がない場合」に当らないので採用することができない。
同第二点について。
所論は、量刑不当の主張であつて、上告適法の理由に当らない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)