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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(れ)3号 判決 1954年8月24日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中一審において証人脇山光博、同染谷秋之助に支給した分は、被告人と一審相被告人初瀬川一男の連帯負担、その余は被告人と原審相被告人野谷重雄、一審相被告人初瀬川一男、同酒井豊、同松浦一明の連帯負担とし、原審において証人飯島荘一、同臼井国雄に支給した分は、被告人の負担、その余は被告人と原審相被告人野谷重雄の連帯負担とする。

本件公訴事実中物価統制令違反、臨時肥料配給統制法違反の点につき被告人を免訴する。

理由

弁護人坂上重守の上告趣意第二点について。

所論は原審認定詐欺の事実と本件公訴事実との間に同一性がないと主張するのであるが、所論本件公訴事実は一審判決認定事実に示されるように第一、被告人は野谷、米山等と共謀して昭和二二年四月九日川崎市所在浜川崎駅構内で領得の意思で荷送人昭和電工株式会社荷受人宮城県農業会硫酸アンモニア三百十九叺(一叺四五瓩入)積込同県矢本駅行の貸車ワム第九〇〇八号の車票を密かに差し換え情を知らない当該鉄道係員をしてこれを山形県羽前山辺駅に転送させ、第二、被告人は酒井、野谷、初瀬川、米山等と共謀して同年五月一三日前記浜川崎駅構内で領得の意思で荷送人同会社荷受人新潟県農業会硫酸アンモニア三百十九叺(一叺四五瓩入)積込同県六分駅行の貸車スム第三二〇二号の車票を窃かに差し換え情を知らない当該鉄道係員をしてこれを茨城県三妻駅に転送させて、各肥料公団所有の硫酸アンモニアを窃取したという趣旨のものであり、これに対応する原審認定事実の要旨は第一、被告人は肥料積載の貸車の車票を差し換えて他の駅に転送させ、係員を欺罔してこれを入手売却しようと企て野谷、米山等と共謀の上昭和二二年四月九日車票用紙に線名左沢線、着駅羽前山辺駅、荷受人駅長、品名省用品、発駅安善等と記入し、浜川崎駅構内で、組成貨物列車の中、昭和電工株式会社製造に係る当時日本肥料株式会社(後の肥料公団)所有の宮城県農業会宛硫酸アンモニア一叺四十五瓩入三百十九叺を積載した扇町駅発宮城県矢本駅行ワム第九〇〇八号貸車の車票を抜き取り、前記虚偽の車票と差し換え、同貸車をそのまま発送させ同月一一日山形県羽前山辺駅に到着させ、翌一二日酒井豊と共に山辺駅に到り駅長大内忠蔵に対し、自分は国鉄労組総連合会厚生部員岡田一雄の名刺を出し、酒井豊は昭和電工株式会社労働組合の代表者武田豊と名乗り、前記ワム第九〇〇八号貸車に積載した肥料は、昭和電工株式会社において資金獲得のため、正式ルート以外に山形県の農業会に売却するため送付したものであるから、引き渡して貰いたいと虚構の事実を申し向け同人を欺罔してこれを騙取しようとしたが、同人がその引渡を拒絶したためその目的を遂げず、第二、被告人は前同様の方法で硫酸アンモニアを積載した貸車を転送し、保管関係者を欺罔して騙取しようと企て、野谷、米山、初瀬川等と共謀の上、予め米山が、茨城県結城郡三妻村村長染谷秋之助に対し、自分は昭和電工株式会社の社員であるが、同会社では従業員の生活突破資金を作るため硫酸アンモニアを売却することになったから買って貰いたいと虚言を弄して買受の承諾を得ておき、酒井豊をして貸車車票用紙に、発駅安善、着駅三妻、真荷送人昭電、荷受人((ツ))真荷受人三妻農業会等と記入させ、同年五月一三日浜川崎駅構内で、組成貨物列車の中、昭和電工株式会社製造に係る当時日本肥料株式会社(後の肥料公団)所有の新潟県農業会宛硫酸アンモニア一叺四十五瓩入のもの三百十九叺を積載した新潟県六分駅行スム第三二〇二号貸車の車票を抜き取り、前記虚偽の車票と差し換え、そのまま同貸車を発送させ、同月一五日、これを前記三妻駅に到着させたので、同駅長山口留吉は、右貨物の荷受人は車票記載のとおり((ツ))即ち丸通こと常総合同通運株式会社三妻出張所であると誤信して右出張所に交付し、同出張所係員も同貨物の真の荷受人は車票記載のとおり三妻村農業会であると誤信し同農業会に引き渡し、同農業会は配給用として県当局より送付されたものと思料して同会倉庫に保管中、前記米山、初瀬川等において同月一六日前記三妻村染谷秋之助方で同人に対し右硫酸アンモニア三百十九叺を代金三十八万二千八百円で売却し、同月一八日頃右染谷秋之助より、右肥料は同人が昭和電工株式会社より全部買受けたものと告げられ、これを真実と誤信した前記三妻村農業会役員をして、右硫酸アンモニア全部を右染谷秋之助に交付させてこれを騙取したというのである。

してみれば、所論の本件公訴事実と原審認定事実とは基本的事実関係としては、いずれも同一物件について車票の差換による不法領得という同一行為に関するものであって、一は所論の日時場所における貸車の転送をもって窃盗既遂と断し他は然らずとしたのは単に占有関係の法的価値評価を異にした結果にすぎない。それ故原審認定事実と公訴事実は同一性を失うものではなく所論は理由がない。

次に職権をもって調査するに、被告人に対する本件公訴事実中物価統制令違反、臨時肥料配給統制法違反の点(原審判示第三の事実)については、昭和二七年政令第一一七号大赦令(同令一条八七号、一一六号該当)により大赦があったので右公訴事実については被告人を免訴すべきものである。それ故原判決はこの点において破棄を免れず結局上告理由あるに帰する。

よって上告趣意第一、三点に対する判断を省略し刑訴施行法二条旧刑訴四三四条、四四七条、四四八条、四五五条、三六三条三号により主文一、五項のとおり破棄、免訴し、爾余の原判示第一、第二の事実につき更に判決すべきものとする。

よって右所為について法令を適用すると、判示第一の所為は刑法二四六条一項二五〇条六〇条に、同第二の所為は同法二四六条一項六〇条に各該当し、右詐欺と詐欺未遂とは犯意継続に係るものであるから、昭和二二年法律第一二四号附則四項により同法による改正前の刑法五五条を適用して連続一罪とし、その所定刑期範囲内において被告人を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法二五条に従い、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用について刑訴施行法二条旧刑訴二三七条一項二三八条を適用し、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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