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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)3991号 判決 1960年12月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人加堂正一の上告趣意第一点について。

論旨は判例違反を主張するけれども、引用の判例は、贈賄罪が成立するためには、贈賄者に収賄者の職務権限に対応するなんらかの義務があることを必要とすると判示しているものでない。引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(税務署の直税課資料係の大蔵事務官が所得額や所得税額決定の基礎となる資料の調査蒐集の職務権限を有することは、大蔵省組織規程昭和二四年五月三一日大蔵省令三七号一四一条(現行一四二条)の規定から見ても明らかである。)

弁護人山田謙一の上告趣意第一点について。

弁護人加堂正一の上告趣意第一点について説示したと同一理由により、論旨は理由がない。(二三輯二六六五頁とあるは一二輯一三五三頁の誤記と認める。)

同第二点について。

原判決において、被告人若山永太郎が所論資料箋を提出しなかったことについて犯罪の成立を認めているものではなく、被告人若山が大蔵事務官宮坂孝正に対しその職務に関して金銭を供与したことを贈賄罪と認定しているのであるから、所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人佐藤三郎の上告趣意について。

論旨は判例違反を主張する。しかし、原判決において、証券取引における譲渡所得税決定の基礎資料の調査も大蔵事務官宮坂孝正の職務に属している旨判示しているのは相当であり(昭和三〇年(あ)七六二号、同三二年二月二六日第三小法廷判決、刑集一一巻二号九二九頁参照)、原判決は論旨引用の判例に反するものではない。(刑法一九八条の贈賄罪の成立するためには、贈賄者に収賄者の職務権限に対応するなんらかの義務があることを必要とするものではなく、贈賄者において収賄者に強制する権限があるものと誤信していても贈賄罪の成立に消長をきたすものではない。)論旨は理由がない。

弁護人山脇正夫の上告趣意について。

論旨は判例違反を主張する。しかし所論原判示は相当であり、原判決は引用の判例に反するものではない。(弁護人加堂正一の上告趣意第二点および弁護人佐藤三郎の上告趣意についての説示参照。)

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋 潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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