最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)870号 判決 1957年3月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡部秀温の上告理由第一点について。
所論は、上告人に共同不法行為の責任を認めるためには、上告人と他の不法行為者間に意思の連絡があつたかどうかを証拠によつて確定しなければならないのに、原判決はこの点を観過した違法があると主張する。しかし民法七一九条一項前段の共同の不法行為が成立するためには、不法行為者間に意思の共通(共謀)もしくは「共同の認識」を要せず、単に客観的に権利侵害が共同になされるを以て足りると解すべきであるから、原審が特に所論のような「意思連絡」の有無を確定しなかつたからといつて、なんら違法はない。(共同不法行為者各自に主観的要件たる故意、過失の具われることを要することはいうまでもないが、論旨が単に故意の判定を非難する趣旨としても、記録に存する資料について検討してみると、原審が上告人にも、権利侵害の故意ありしものと判定したのは相当であつて所論の違法はない。)
同第二点について。
所論中、原審の採用した証人城利幸の供述を伝聞証言であると非難するが、民事訴訟においては、伝聞証言の証拠能力は当然に制限されるものではなく、その採否は、裁判官の自由な心証による判断に委されていると解すべきのみならず(昭和二七年一二月五日第二小法廷判決、集六巻一一号一一一七頁参照)、また解雇された社員が常にその会社の社長について真実に反した証言をするものとは限らないから、その証言を採用することを違法ということはできない。ひつきよう所論は、原審の裁量に属する証拠の採否を非難するにすぎない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)