最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)969号 判決 1958年10月21日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人鍛治利一の上告理由第一点について。
原判決は、その挙示の証拠を綜合し、本件係争地については所在区の土地整理委員らが所在村役場備付の図面に基き検地測量をした結果、その境界線を原判決主文第二項記載の如く確定し、本件当事者双方もこれにつき何ら異議がなかつた事実を認定した上、本件係争両地の境界線を被上告人主張のとおり主文第二項記載の如く確定しこの点に関する上告人の主張を排斥したこと原判文上明らかである。しかし、原判決の引用する第一、二審証人中村正重の証言(第一審は第一回)によれば、縮尺六〇〇分の一をもつて表示された前記村役場備付の図面により、ほぼ東西に隣接する本件係争両地の南北両境界線の長さを検量するときは、実地にはいわゆる縄延びがあつたところ、前記土地整理委員らが右土地の南側境界線を測量するにあたつては、先ず上告人所有の二二一三番の土地に面接する同人所有の二二一二番の西南角から右図面の一分を一間として計量して二二一二番および二二一三番南側境界線の長さを確定し、次いで本件係争地の北側境界線についても右二二一二番の北西角から同様の方法によつて二二一二番および二二一三番の長さを確定したというのであつて、これに反する証拠は存しないのであるから、これによるときは、上告人所有の二二一二番および二二一三番の土地については全然縄延びのないことを前提として測量したものといわなければならない。およそ相隣接する土地の境界線が不明であり、これを右両地の図面上の両側境界線の長さによつて確定しようとするためには、先ず両地の反対境界線を確定し、その間の長さが図面表示の長さと異る場合には、他に特段の事情がないかぎり、その差異を図面上の両地の長さに按分して帰せしめ、もつて右両地の境界線を画定すべきものといわなければならない。けだし係争両地の反対境界線が確定しないかぎり、その側面の長さをはかるに由なく、また単に一方の土地の側面の長さのみを図面上の長さに従つて計量するときは、勢い実測上の差異はすべてこれを他に帰せしめることとなるからである。しかるに、前示証言によつても、被上告人所有の二二一六番の反対境界線(東側境界線)が確定していると認むべき根拠がないだけでなく、前示の如く本件係争地の南北両境界線の長さを測定するにあたつては、単に上告人所有土地のみについて図面上の長さを基準として被上告人所有土地との境界を定め実地上の縄延びが上告人所有土地に全然存しないことの合理的根拠を何ら示していないのであつて、かかる測量に基く境界の確定は、違憲となすべきこと前説明により明らかであるというべきである。しからば、前示の如き測量方法によつて画定した前示土地整理委員の境界線を採用し、たやすくこれによつて本件係争地の境界を確定した原判決は違法であつて破棄は免れない。
よつてその余の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)