最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)3215号 決定 1956年12月25日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人本人の上告趣意について。
論旨第一点及び第二点として詳述するところは、結局事実誤認と量刑不当の主張をいでないものであって刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして記録を調べてみても事実誤認は認められず、また量刑が不当であるとはいえない。
弁護人向江璋悦、安西義明の上告趣意第一点について。
所論は原審で主張、判断のない事項に関するものであるから上告理由として不適法である。そしてその一部を論旨に引用している最高裁判所判例集(三巻三号三一八頁)は、昭和二三年(れ)第一六六一号事件について同二四年三月一七日第一小法廷が宣告した判決であるが、その判決理由中に、裁判官は、具体的刑罰の種類と分量について当事者双方の忌憚のない意見を聞き、その良心に従って独立して公平に職権を行うもので、毫も当事者一方のみの意見に拘束されるものでない旨の判示があり、同判決理由全体を見れば優に検察官の求刑が違法でない理由を首肯し得るのであって、もとより同判例を変更すべき必要を認めない。結局所論は右判例にそわない独自の見解たるに過ぎず採用のかぎりでない。
同第二点について。
所論は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当たらないのみならず、その内容も採り得ないこと原判示のとおりである。
同第三点について。
所論は、量刑の非難に過ぎず、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。
同第四点について。
所論は違憲をいうが、その実質は量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして憲法三六条にいわゆる「残虐な刑罰」の意義については、判例がくりかえし示しているとおりであり、刑法に定める無期懲役刑が右にいわゆる残虐な刑罰にあたらないことも論旨指摘判例が認めているところであって今これを変更しなければならない理由は認められない。
同第五点について。
所論は、無期懲役刑が憲法三一条、一三条に違反すると主張する。しかし死刑を定めた刑法の規定は違憲でないとする昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決(集二巻三号一九一頁)は、その理由中に、憲法一三条、三一条を引用して死刑の合憲性を判示し、死刑についても右憲法法条に違反しないとしているのであるから、右大法廷判決の趣旨に徴すれば論旨を採用し得ないことおのずから明らかである。(なお無期懲役刑が憲法三六条にいわゆる残虐な刑罰にあたらないとする前記判例も右大法廷判決を援用している。)
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)