最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)25号 判決 1958年10月21日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点について
所論は原判決の経済上の実験則違反をいうが、破産会社の業績大いに挙つていて訴外東京銀行に対する引受債務の弁済が毎月純益中よりなされ、被上告銀行(被控訴銀行)より融資を受ければ本件連帯保証債務は毎月一〇万円ずつ返済することが可能であつた等所論の原判示事実は原判決挙示の証拠によりこれを認定することができ、所論掲記の甲一〇号証、同一四号証によつても右原判示が計数的根拠に基く経済上の実験則に反する違法あるものというをえない。所論は畢竟証拠の取捨、事実認定の非難に帰し採用できない。
同第二点について
所論は、本件連帯保証契約は破産会社の目的の範囲外であると主張し、これを排斥した原判決の違法をいうが原判決は、原判示の目的(註、(一)養殖真珠の加工及び輸出(二美術工芸品及び日用雑貨類の輸出及び輸入(三)右に附帯する一切の業務)の破産会社が判示の事実関係の下で、会社の目的たる事業の発展に必要な運転資金の融通を被上告銀行から受ける必要上、被上告銀行の提出した条件に応じて、訴外仙宝工芸株式会社が被上告銀行に対して負担する債務二千数百万円のうち五〇〇万円につき本件連帯保証契約を締結した事実を認定しているのであつて、この事実関係によれば、破産会社のした本件連帯保証契約の締結は、特段の事情のない本件においては、破産会社の目的遂行に必要な行為であり、会社の目的の範囲内に属する行為であると解するを相当とする。原判決の認めた破産会社の資本金が三〇〇万円であることは本件連帯保証契約の締結をもつて会社の目的の範囲外の行為であるとする理由とはならない。所論の点に関する原判示は相当であり、論旨は理由がない。
同第三点について
原判決は上告人が原審においてなした所論の主張を、商法二四六条の法意に照らし、本件連帯保証契約の締結には適用される余地はないと判断して排斥したものであることは判文上明らかであり、右判断は正当と解されるから、原判決には所論の違法はない。所論は同条に関する独自の見解を前提とし原判決を非難するもので採用できない。
同第四点について
所論の甲二号証(保証参加並に手形割引保証契約書)第一二条に「本契約発行(発効の誤記と認められる)期日は昭和二六年六月二〇日とする」旨の記載があること所論のとおりであるが、この記載があることによつて右期日に所論契約が成立したものと認めなければならないものではなく、原判決挙示の証拠によれば所論の点に関する原判決の事実認定を首肯することができるから、原判決には採証法則、経験則違反はなく、また、原判示には何ら所論のような理由の不備、くいちがいはない。所論は結局原審の証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し採用できない。
同第五点について
原判決は、要するに、(イ)本件連帯保証契約は破産会社の取締役であつた訴外原田慶次郎が破産会社を代表して被上告銀行との間に締結したものであつて、何ら右原田が個人として、又は被上告銀行の代表者又は代理人として破産会社との間に締結したものでない事実(ロ)なお原田は訴外仙宝工芸株式会社の株主であり、破産会社が本件連帯保証をした同訴外会社の債務につき被上告銀行に対し別に個人として連帯保証をした事実を各認定した上、原田が被上告銀行に対して負担している右連帯保証債務は破産会社が新たに被上告銀行に対し本件連帯保証を約することによつて消滅もしくは軽減されるものでもなく、また原田が前記訴外会社の株主であつても本件保証契約により同人が法律上当然利益を得るものともいい難いから、(イ)の事実関係である以上商法二六五条の規定は本件連帯保証契約に適用する余地がないとして、右規定の適用を前提として本件契約が無効であるとする上告人の主張を排斥したものであること判文上明らかであり、右判断は正当である。
論旨は独自の見解に基づき原判決を攻撃するもので採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)