最高裁判所第三小法廷 昭和32年(さ)1号 判決 1957年3月26日
本籍
静岡県吉原市今泉一三〇番地
住居
横浜市神奈川区六角橋北町一〇二三番地
関東建設株式会社飯場内
現在
横浜刑務所在所
土工
岩間保芳
昭和七年一〇月三一日生
右の者に対する窃盗、傷害被告事件について昭和三一年一〇月一一日神奈川簡易裁判所の言渡した確定判決に対し検事総長佐藤藤佐から非常上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年及び罰金五千円に処する。
被告人が右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
本件非常上告申立の理由は、末尾添附別紙記載のとおりである。
よつて調査すると原審神奈川簡易裁判所は、昭和三一年一〇月一一日被告人に対し窃盗及び傷害の事実を認定し傷害罪につき懲役刑を選択した上再犯加重と併合罪加重をして懲役一年二月に処し、この判決は上訴期間の経過により確定するに至つたものと認められる。
裁判所法三三条一項によれば簡易裁判所は窃盗及び傷害の罪について裁判権を有するが、同条二項によつて但書の場合を除いて禁錮以上の刑を科することができないことになつており、傷害罪につき懲役刑を選択し窃盗罪と併合加重をして懲役刑を言渡すことはできないことが明らかである。簡易裁判所がそのような処断を相当であると認めれば同条三項、刑訴法三三二条の規定により事件を地方裁判所に移送しなければならない。これをしないで傷害罪に懲役刑を選択の上併合加重をした原判決は、裁判所法三三条二項に違反したもので本件非常上告は理由がある。そして原判決は被告人のため不利益であると認められるから刑訴法四五八条一号により原判決を破棄し、右被告事件について更に判決することとする。
原判決が確定した事実に法律を適用すると窃盗の点は刑法二三五条、六〇条に、傷害の点は同法二〇四条罰金等臨時措置法二条、三条に各該当するから、後者につき罰金刑を選択した上被告人には原判示のような累犯に係る前科があるから前者については刑法五六条、五七条により累犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四八条一項に従いそれぞれ所定刑期及び金額の範囲内において被告人を懲役一年、罰金五千円に処すべきものとし、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用について刑訴法一八一条一項但書を適用して裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
検察官 安平政吉出席。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)