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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)1219号 判決 1960年12月23日

名古屋市東区山田東町一丁目五五番地

上告人

木下滋康

右訴訟代理人弁護士

竹下伝吉

森健

同市同区臼壁町四丁目二二番地

被上告人

名古屋東税務署長

田中栄三

右当事者間の課税処分並に滞納処分無效確認請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和三二年九月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は、原案の専権に属する証拠の取捨選択を非難するに帰し、いずれも採用のかぎりでない。(仮に被上告人の本件処分が誤認に基づくものであるとしても、右誤認は重大・明白なものとは認められないから、本件処分は当然無效のものとは認められない)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋 裁判官 石坂修一 裁判長裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。裁判官 島保)

(参考)

○昭和三二年(オ)第一二一九号

上告人 木下滋康

被上告人 名古屋東税務署長

上告代理人竹下伝吉、同森健の上告理由

第一点 原判決は理由不備の違法性がある。

(1) 原判決は被上告人提出の乙第一号乃至第一八号証を真正に成立したものとして之を鵜呑みにして上告人の主張を排斥しているが右は何れも大蔵事務官、検事に対する上告人、並に関係者の供述調書の写であり之等は原本は存在せず、原本作成者の取調べもなく全く証拠価値のないものである。而して証人菊田繁雄、上告人等は何れも拘留せられ苦痛に堪えず誘導尋問をされ虚偽の陳述をしていることは原審における同人等の供述の通りである。元来捜査当局の作成した書類は被告人の同意なき限り反対尋問の機会を与えねば証拠とし得ない性質のものである。然るに原本が存在せず勝手に作成して写と称して提出された右各号証を金科玉条とし更に仮りに写としては真正に成立したとしても其の内容に何等検討を加えず、即ち供述者の直接の尋問による供述を何等省みず上告人の主張を排斥して判断する如きは理由そごの甚しきものと信ずる。

(2) 本件事実の真相は原審証人山崎、菊田の証言通り被上告人主張とは全く異り上告人は本件密造には何等関係ないものである。現に上告人は検察当局において密造の証拠なく起訴されなかつたものである。

原審判決は全く形式的で証拠価値なき書類を全面的に採用し合理的な証拠を一切排斥して為されたもので事実の真相を把握しないもので破棄さるべきものである。

以上

○昭和三二年(オ)第一二一九号

上告人 木下滋康

被上告人 名古屋東税務署長

上告代理人竹下伝吉、の上告理由

第一点 原判決には「判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背がある」から破棄さるべきである。

第一、本件において上告人に原判決判示の如き密造行為があつたかどうかの認定だけが上告人の請求の理由の有無をるのであるが此の点に関する原判決の認定は自由心証主義(民事訴訟法第一八五条)に反する違法のものである。

第二、もともと事実の確定は事実の専権であるが事実認定中に論理に飛躍があつたり常識上到底不可能な推理にいると認められない場合には違法な事実の確定として判決の法令違背となり上告審のコントロールを受くべきは当然である。(兼子一・新修民事訴訟法体系二五四頁)

第三、本件密造事実の真相

本件密造は訴外後藤や鈴木等にかかるもので偶々それが借家である上告人方において為されたため全然関与したことのない上告人がその飛ばつちりを受けたに過ぎないのである。

第四、証拠

この点を証拠論的に考察する時右事実は全く動かし難いところである。即ち

(一) 被告人の刑事責任容疑なし。

被告人の密造容疑は証拠不充分として不起訴処分となつている。(上告人の原審における供述)

(二) 密造従事者山崎哲の供述

一、山崎は密造従

二、山崎は密造のため二月か二月半上告人方に在住していたがその間に上告人とは朝夕の挨拶をしたことがあるだけで密造の話は全然していないのである。

三、山崎は始めは上告人も仲間位に思つていたが上告人は密造の仕事もしに来ないし引揚げる時密造者が上告人に家賃を払つたのを目撃し密造仲間で無かつたことをはつきり自覚したのであつて現在振りかえつて見ても仲間らしい処は全然ないのである。(以上山崎哲の原審における供述)

(三) 密造酒買受人である菊田夫妻の供述

一、菊田繁雄、同隅江は酒、味噌等の商人である。

二、同人等は密造酒を買受けたが直接の売渡は鈴木がやつており上告人が来たことは一度もないのである。(繁雄、隅江の原審供述)

三、菊田等も密造者である後藤から「上告人の納屋を借りている」と聞いただけで上告人と共同にやつているときいたことは全くないのである。(菊田繁雄の原審に於ける供述)

四、たゞ山崎や鈴木が上告人の名をかたつていた(隅江の原審における供述)ことから取調べを受けるつらさから取調官に上告人も一諸に密造をしていると述べたことがあるだけである。(繁雄の第一審における供述記録一一〇丁)

(四) 隣人林春子の供述

隣人の眼をもつても上告人の密造を裏付けるものはない。(同人の第一審における供述記録一五〇丁)

(五) 上告人の行動

上告人は単に密造者と知らず家を貸し密造者とわかつて慌てて追い立てただけである。従つて売込み先である菊田にあつたこともないのである。(上告人の原審における供述)

(六) 上告人の潔白を裏付ける証拠

一、上告人の妻木下征子の供述

上告人やその家族で密造酒を作つたものもないし又そのようなことをする必要な事情もなかつた。(記録一五五丁)

二、直接従事者の消極的主張

前記山崎哲の供述、延金福竜の供述(記録一三〇丁)はいずれも上告人が関与していないことを明白に主張している。

三、買受人の消極的主張

菊田夫妻が異口同音に上告人の関与を否定していることは前述の通りである。

第五、結論

以上の如く直接、間接の従事者が異口同音に、しかも相互に表裏相一致して上告人の密造を否定していることはそれだけで絶対的に上告人の潔白を証明するものである。しかも乙第三乃至六号証の一、二等も同様である。

しかるに原判決挙示中の上告人に不利益な証拠は乙第一号証の一、二、三、四、八、一〇乃至二五等殆ど書証につきるのである。而して書証が伝聞証拠であつて証明力に乏しく到底上告人の密造を裏付け得ないことは刑事訴訟法における伝聞証拠排除法則を考えるだけでも当然である。にも拘らず直接従事者の供述及びそれを裏付ける幾多の証人の供述の証明力を一片の供述調書で否定するだけでなく右各書証をもつて積極的に認定したのは常識上到底不能の推理であり前記自由心証の限界を逸脱した違法たるを免れない。

依つて原判決は民事訴訟法第一八五条に反するから破棄さるべきである

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