最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)1234号 判決 1960年2月23日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人河原太郎の上告理由について。
論旨は、被上告人が上告人の昭和二三年度分所得金額について昭和二四年二月二八日附でした更正を同二五年一二月二三日附で訂正したのをもつて旧所得税法四六条四項の再更正であるとして、これに対し審査請求も訴訟の提起もゆるされる旨を主張し、原判決が本訴を不適法としたのを非難するのである。
法四九条一項は四六条五項の通知に対し審査請求をなすことができる旨を規定しているけれども、同条四項は「その更正し又は決定した所得金額若しくは所得税額……について脱漏があること(……中略……)を発見したときは」更正することができる旨を規定しているのであり、本件の場合、右昭和二五年一二月二三日附訂正は、さきにした更正金額を減額しており、しかも原審における当事者の主張によれば、あらたに上告人の所得金額に脱漏があつたことを理由にするものではないから、右四六条四項の更正にあたらないことは明白である。本件の場合、右通知に更正処分の通知用紙を用いたからといつて右訂正が更正になるものではない。
およそ行政処分に対し訴願、審査請求、訴訟がゆるされるのは、当該処分によつてその権利、利益を侵されることがあるからであり、従つてこのような処分に対してのみ訴願、審査請求、訴訟の提起がゆるされるものと解すべきである。上告人が不利益を受けたのは昭和二四年二月一八日附更正によるものであつて昭和二五年一二月二三日附の本件訂正によるのではない。上告人がさきの更正に対し法定の期間内に不服申立をするならば格別本件訂正に対し不服をいうべき理由はなく、かかる減額訂正に対し審査請求、訴訟をゆるさないからといつて少しも不合理はない。論旨は要するに上告人独自の見解であつて理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)