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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(あ)2335号 判決 1962年5月01日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

第一審における未決勾留日数中四五日を右本刑に算入する。

押収にかかる金指輪一個、日本銀行券一二枚(一〇〇〇円券九枚、一〇〇円券三枚)および硬貨四枚(五〇円貨二枚、一〇円貨二枚)を没収する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人稲沢智多夫の上告趣意第一点について。

所論は、原判決が被告人の密出国の所為に対し、出入国管理令二五条二項、七一条により処罰したのは、憲法が与えた外国移住権を制限したものであるから、同二二条二項に違反するものであると主張する。しかし、出入国管理令二五条が憲法二二条二項に違反するものでないことは、判例の示すところであり(昭和二九年(あ)三八九号同三二年一二月二五日大法廷判決、集一一巻一四号三三七七頁)、従って同令二五条二項の規定に違反して出国した被告人の所為につき、同令七一条を適用処断した原判決が、憲法二二条二項に違反するものでないこともまた明らかである。よって所論違憲の主張は採用できない。

同第二点について。

所論は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

福岡高等検察庁検事長草鹿浅之介の上告趣意について。

所論指摘の原判決の判断が、所論二の1の判例と相反するものであることは所論のとおりである(2の判例は密出国と密輸出とに関するものであって本件に不適切である)。かつ参考判決として引用の同3の被告人高太亨外一名に対する出入国管理令違反、関税法違反等被告事件に対する福岡高等裁判所の判決については、最高裁判所昭和三三年(あ)二九六八号同三五年一〇月二八日第二小法廷判決(最高裁判所裁判集刑事一三五号六五五頁)は、「原判決が所論出入国管理令違反罪と関税法違反罪を併合罪の関係にあるとしたのは正当である」旨判示し、これを支持しているのであって、当裁判所もこれと見解を同じくするものである。

よって被告人の本件上告はその理由がないけれども、検察官の上告はその理由があるものと認め、刑訴四一〇条一項、同四一三条但書により原判決を破棄し、被告事件につき更に判決をすることとする。

第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の判示所為中第一1の密出国の点は出入国管理令二五条二項、七一条、罰金等臨時措置法二条に、第一2の密入国の点は同令三条、七〇条一号、罰金等臨時措置法二条に、第二の密輸入の点は関税法一一一条一項、罰金等臨時措置法二条に各該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条により最も重い密入国の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役六月に処し、同法二一条により第一審における未決勾留日数中四五日を右本刑に算入し、主文第四項掲記の物件は前記第二の密輸入の犯罪に係る貨物であって、被告人の所有に属するので関税法一一八条一項により被告人から没収し、原審における訴訟費用(国選弁護人の費用)は刑訴一八一条一項本文により被告人に負担させることとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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