大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)186号 判決 1960年4月26日

主文

原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人真田重二の上告理由第一、二点及び同海野普吉、坂上寿夫、内田博の上告理由について。

不動産の買戻権は、わが民法上一種の契約解除権の性質を有するものと解すべきである。ただ、民法は、右不動産買戻権の行使により目的不動産の所有権を取得できる結果に着眼し、これが登記の途を開いて或る程度物権に準ずる取扱をしているので(同法五八一条一項参照)、買戻の特約につき登記がなされた場合には、買戻権の譲渡もまた物権の譲渡と同様に譲渡当事者間の意思表示のみによつて有効にこれをなし得べく、右当事者以外の第三者に譲渡を以て対抗するには譲渡による移転登記を要し且つこれを以て足りると解するのが相当とされるにすぎない。(大審院昭和八年(オ)一二二五号同年九月一二日言渡判決、大審院民事判例集二一五一頁参照)。

それ故、買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡は、契約解除権たる本質にかんがみ、売主の地位と共にのみこれをなし得べく、右譲渡を以て買主に対抗するには、民法一二九条四六七条に従い買主に対する通知又はその承諾を要し且つこれを以て足りるものと解すべきである。

然るに、原審が、売主たる訴外植山義三において本件不動産に対する原判示抵当権設定登記を抹消したときに売買残代金八万五五〇〇円の支払を受くべき旨合意の成立した事実を認定しながら、右抹消をすることが売主の債務として残存するや否やを審究することなくしてたやすく同訴外人から上告人に対する本件買戻権の譲渡を有効と認め、また、右譲渡を以て買主たる被上告人に対抗するにはその旨移転登記を経ることを要する旨判示したのは、いずれも法令の解釈適用を誤つた違法があり、他の上告論旨につき判断するまでもなく、原判決は全部破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、全裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例