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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)221号 判決 1962年5月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人八島喜久夫の上告理由論旨一について。

原審は、証拠によつて、本件係争地の賃借権及びその地上生立の立木所有権は原判示の経過により昭和三年一二月二六日半沢文吉から被上告人に譲渡され、同一六年中に右譲渡は賃貸人の承諾を経たこと、他方同二七年一月一九日本件係争地はその所有者七ケ宿村から二重に上告人に賃貸された事実を認定しているのである。ところで被上告人は、本件係争地について適法に原判示のような賃借権を有し、その権原に基いて、その地上に本件立木を所有しているのであるから、民法二四二条但書に従い、右立木所有権は本件係争地の地盤所有者たる七ケ宿村に対する関係では地盤に附合するものではない。しかしながら被上告人の右立木所有権の留保は、地盤に関して右七ケ宿村から二重に賃借権を取得した上告人に対して公示方法なくして対抗できるかどうかは別である。しかして被上告人は本件係争地の地盤に対する賃借権を上告人に対抗できる事由はなかつたこと、並びにその地上の本件立木についても地盤から分離してその所有権を第三者に対抗しうるための公示方法はなされていなかつたことが原判文上明らかなのであつて、かりに上告人の右地盤賃借権が、その賃借権発生前に生立した立木を処分伐採する権能をも包含する内容のものであるとの事情があれば、被上告人は右立木所有権を上告人に対抗しうるためには公示方法を必要とするものと解せられ、このように解することは、地盤所有権の取得につき未登記のままその地盤上に植栽した立木所有権を第三者に対抗するには公示方法を必要とするとの当裁判所昭和三二年(オ)第三二五号、同三五年三月一日第三小法廷判決、集一四巻三号三〇七頁の趣旨に照応するものである。けれども原判決を仔細に検討してみると、原審は上告人が七ケ宿村から取得した賃借権は、本件係争地の地盤に関するが、地上生立の本件立木にかかわるものではなく上告人が本件立木を処分伐採する等の権限を包含するものとは解せられないという趣旨の事実を認定していることを看取するに難くなく、また上告人が原判示の通り、本件立木全部を伐採した事実は原審の適法に確定しているところであつて上告人の地盤賃借権が、その賃借権発生前に生立していた立木を伐採する権限まで包含しなかつたという事情があつたのであるから上告人の本件立木伐採は、その権限をこえた行為であり、被上告人はかかる上告人に対しては右立木につき公示方法なくしてその所有権を上告人に対抗できるものといわなければならない。従つて本件係争地上の本件立木所有権について被上告人は、公示方法を備えなくとも上告人に対抗できるとした原判決は結局肯認できる。論旨は採用できない。

同論旨について。

所論は、結局原審が専権に基いて適法にした証拠の取捨、事実の認定を非難するかないしは原判示にそわないところであつて採用できない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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