最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)32号 判決 1959年11月10日
上告人 許宗守 外一名
被上告人 東京入国管理事務所主任審査官 山本紀綱
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人金田賢三の上告理由について
出入国管理令第五〇条に基き在留の特別許可を与えるかどうかは法務大臣の自由裁量に属するものと解すべきこと、所論のような事情があるにもかかわらず同大臣が特別許可を与えなかつたとしても裁量権の濫用があるといい得るものでないことは、原審の判示するとおりであつて、所論は採用のかぎりでない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 島保 河村又介 垂水克己 高橋潔 石坂修一)
上告理由
一、原判決は法律の解釈適田川を誤つた違法があるので破棄せらるべきものであると信ずるのである。
(一) 即ち原判決の援用した第一審判決は上告人等の請求を棄却しその理由として本件退去強制令書発布の基礎となつた法務大臣の裁決は何等違法でなく従て右裁決に基く本件処分も又違法ではないと判示したのである。
然しながら出入国管理令第五〇条によれば法務大臣が右裁決をなすに当つて異議申立が理由なき場合でも特別に在留を許可すべき事情があるときはその者に対し特別に在留を許可するとができる(同条第一項第三号)旨規定しているのである。
二、而して上告人許宗守は昭和十年頃から許婚となつていた訴外李弘洙と結婚するため前記日時頃本邦に入国しその頃から右訴外人と内縁関係にあり(日韓両国間の国交上の特殊事情のため正式の婚姻届ができないものである)すでに上告人李元をもうけて夫婦仲も睦まじく暮しているのであつて、なお右訴外人は戦時中から本邦に居住し現在煎餅の製造を営み相当の資産及び信用もあつてその生活には何らの不安もないのである。
従つて法務大臣としては右のような事情の下にある上告人等に対して前記異議申立に対する裁決をなすにあたつて在留を特別に許可すべきであつたにもかかわらず右許可を与えることなく上告人らの異議申立を理由なして裁決したことは裁量権を濫用したものであり、従て右裁決は違法であり、違法な右裁決に基いてなされた被上告人の処分も又違法であると謂はねばならぬ。
三、然るに原判決は右の如き事情は法務大臣に於て在留許可を与えるべき何等特別事情に該当しないとして上告人等の請求を棄却したのであつて明らかた出入国管理令第五〇条の解釈適用を誤つた違法があるので破棄せらるべきものと信ずるのである。
以上