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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)730号 判決 1960年12月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長谷川毅の上告理由第一点について。

借地法一〇条にいう建物の「時価」とは、建物を取毀つた場合の動産としての価格ではなく、建物が現存するままの状態における価格である。そして、この場合の建物が現存するままの状態における価格には、該建物の敷地の借地権そのものの価格は加算すべきでないが、該建物の存在する場所的環境については参酌すべきである。けだし、特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益であり、また建物の存在する場所的環境を考慮に入れて該建物の取引を行うことは一般取引における通念であるからである。されば原判決において建物の存在する環境によつて異なる場所的価値はこれを含まず、従つて建物がへんぴな所にあるとまた繁華な所にあるとを問わず、その場所の如何によつて価格を異にしないものと解するのが相当であると判示しているのは、借地法一〇条にいう建物の「時価」についての解釈を誤つたものといわなければならない。しかし、原判決を熟読玩味すれば、原判決において判定した本件建物の時価は、建物が現存する状態における建物自体の価格を算定しており、本件建物の存在する場所的環境が自ら考慮に入れられていることを看取するに難くないから、原判決における上記瑕疵は結局判決に影響を及ぼすものでないといわなければならない。論旨は結局理由がないことに帰する。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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