大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1046号 判決 1962年2月06日

上告人 福沢正志

被上告人 竜内浩史 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平尾賢治の上告理由第一点、第二点について。

本人所有名義の不動産について本人の親権者が自己の特定の債務を担保するためなした申立を容れ、家庭裁判所が親権者の右債務を担保するため本人所有の不動産に抵当権を設定するについてある者を本人の特別代理人として選任する旨の審判をしたときは、これに右被担保債権の金額を表示しない場合でも、右特別代理人は根抵当権を含む抵当権の設定について授権されたものと解するのが相当である。原判決の確定した事実の趣旨は、当時未成年者であつた上告人所有の本件不動産について上告人の親権者である訴外福沢幸一、同ハル子がその判示訴外亡竜門文子に対する債務を担保するためにした申立により、判示家庭裁判所は右両名の債務の担保として本件上告人所有不動産に抵当権を設定するについて訴外福沢正男を上告人の特別代理人に選任する旨の審判をしたというのであるから、右福沢正男は右審判により根抵当権をも設定する権限を有するものいうべきである。それゆえ原判決には所論の違法なく、論旨はいずれも理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

上告代理人平尾賢治の上告理由

第一、原判決は法令違反の判決である。

原判決は理由に於て「控訴人は福沢正男は控訴人の特別代理人として本件不動産につき抵当権を設定する権根を有するに止まり、本件の如く根抵当権を設定する権限を有しない旨主張するが、抵当権を設定するため家庭裁判所によつて選任された特別代理人は当然抵当権の一種である根抵当権を設定すべき権限をも有するものと解すべきものであるから控訴人の右主張は失当である」と断定した。

然ども普通の抵当権と根抵当権とは同種の担保権であるが、其性質には大なる相違あり乃ち普通の抵当権(別表に甲とする)は債権金額一定して不動なるも根抵当権(別表に乙とする)は債権極度額の範囲内に於て債権金額は現実の貸与金額により変動する、従つて債権発生の時期についても貸与の時期により個々別々であるから一つは単一であるも一つは数回に発生する、仮りに之を図解すれば

(甲) 貸金+担保権=普通抵当権

(乙) 貸金+根抵当権設定特種契約+担保権=根抵当権

となるもので二者其の性質を異にするのであるから、特別代理人を選任するに当り其代理行為が普通の抵当権設定と根抵当権設定とは之を区別して其何れであるかを明確にすべきものなること民法の代理委任等の規定に明かなる処であるに拘らず単に同種なることのみを以て当然特別代理人に権限ありとする原判決は法律違反の判決である。

第二、原判決は控訴人の左記主張を審理判断せざるものにて民事訴訟法違反である。

原判決は「控訴人の主張する特別代理人選任の審判(岡山地方裁判所津山支部昭和三一年(家)第二三九号)は抵当権を設定するにつきとありて金何程の債権に抵当権を設定するか其金額を表示して居ないから、代理権限の定めない無効の審判である少くも特別代理人に対し受権の効力を生じない」との重要争点に対して何等審理をしない違法がある。

抑も代理人を選任する場合は其代理する事項は如何なる事柄であるかを明確にすべきは当然にして代理行為の明白ならざる代理行為はあり得ない、然るに本件の審判は単に抵当権を設定するにつきとあるのみにて抵当権の内容を明示しないから例えば金壱万円の債権につき抵当権を設定するのであるか或は金五百万円の債権につき抵当権を設定するのであるか不明である、さればとて債権金額なき抵当権は存在しないが特別代理人に於て勝手自儘に債権金額を作定する権限はないから本件特別代理人選任の審判は結局抵当権設定登記手続の出来ない無効のものと言わざるを得ない、従つて特別代理人福沢正男に受権の効力なきを以て之によつてなされた本件根抵当権登記も亦無効なりとの控訴人主張に対し原判決は審理判断を為さざる違法あり、少くも審理不尽の判決として破毀せらるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例