最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)992号 判決 1963年3月12日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人堀嘉一の上告理由について。
論旨は、原判決が被上告人知事において固定資産税を賦課徴収しないことは地方自治法二四三条の二第四項所定の訴訟の対象たる財産の違法な処分にあたらないと判示したことが、同法条の解釈適用を誤まり、主権在民を宣言した憲法前文に違反する、と主張する。
しかし、地方自治法二四三条の二第四項所定のいわゆる納税者訴訟は、普通地方公共団体の住民の手によつて地方自治運営の腐敗を防止矯正し、その公正を確保するために認められた住民の参政措置の一環をなすものではあるが、普通地方公共団体の事業の管理、出納その他の事務の一般的状況を明らかにすることを目的とする事務監査請求の制度(同法一二条二項、七五条参照)とは異なり、普通地方公共団体の公金、財産および営造物が、本来、住民の納付する租税その他の公課等の収入によつて形成され、自治行政の経済的基礎をなすものであるところから、役職員によるこれが違法な支出、管理、処分行為を防止矯正し、もつて公共の利益の擁護に違算なからしめるため、特に、法律によつて認められた制度である。かかる納税者訴訟制度の目的に照らせば、その対象となるべき財産とは、住民の負担にかかる公租公課等によつて形成された地方公共団体の公金および営造物以外の財産を意味し、地方税の賦課徴収権のごときは、これに含まれないものと解するのが相当である。
また、いわゆる納税者訴訟は、前叙のごとく、普通地方公共団体の住民が主権者として当然に有する権利に基づくものではなくして、同法条によつてはじめて一般住民に認められた制度であり、かような制度を設けるかどうかまたそれをいかなる態様のものとするかは、いつに立法政策に属する問題であることは、当裁判所昭和二八年(オ)第四四九号、同三四年七月二〇日大法廷判決(民集一三巻八号一一〇三頁)の示すところである。従つて、原判決が右訴訟の対象となるべき財産の意義を前叙のように解釈したからといつて、それが主権在民を宣言した憲法前文に違反するものとはいえないことは明らかである。
されば、論旨は、その余の所論について判断するまでもなく、採用することができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)