最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1194号 判決 1964年7月14日
上告人
慎完守
右訴訟代理人
杉村孝輔
被上告人
高瀬庄太郎
右訴訟代理人
秋根久太
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人杉村孝輔の上告理由第一点および第二点について。
原判決およびその引用する第一審判決は、上告人が国税滞納処分による売却決定に基づき、被上告人所有の本件土地上にある宇木武雄所有建物の売渡しを受けたこと、上告人は、右建物取得に際し、本件土地が被上告人の所有であることを知つており、かつ上告人において本件土地を占有する権限があると信ずべきもつともな事情の認むべきものがなかつたこと、および、右建物は宇木武雄が居住してこれを占有していることの事実を確定したものであることは判文上明らかである。以上の事実関係の下においては、上告人が任意に右建物を宇木武雄より取得したものである以上、たとえ建物居住者を立退かしめることに日数を要し、そのため本件土地を被上告人に明渡すことが遅れたとしても、その間の土地不法占有については上告人に責任があるというべきである。かりに上告人が右建物に宇木武雄が居住していることを知らないでこれを取得したとしても、特段の事情のない限り上告人は過失の責を免れることができないのはいうまでもないが、上告論旨はなんら右特段の事情の存在を指摘するものではない。
されば、上告人が本件土地の占有を継続することによる損害金請求につき、上告人に少なくとも過失があるとしてこれを認容した原判決は正当であり、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法がない。
また、以上のように上告人が本件土地の占有を継続することがその責に帰すべき事由に基づくものである以上、たとえ所論のように被上告人が宇木武雄に対し右家屋を退去して本件土地を明渡すべき債務名義を有しているとしても、その一事により、被上告人が上告人に対し前記損害金請求をなすことが信義則に反するとはいえない。
論旨はすべて採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官横田正俊 裁判官石坂修一 柏原語六 田中二郎)