最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)282号 判決 1962年3月27日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中原保、同神垣守の上告理由第一点について。
原判決は、所論の如くに、訴外清水晶が上告会社代表取締役の署名、印章及び上告会社の印章を盗用して、本件手形二通を偽造したものであるとの事実を認定して居るものではなくして、本件手形二通を振出すについては、上告会社の取締役であり、兼ねて総務部長若くは経理部長であつた右清水がその代理権限を有しなかつたけれども、上告会社の仕入品代金の支払手形として同人の有する代理権限を踰越し、上告会社代表取締役の署名を代理する方法により、振出したものであり、受取人となつた訴外相互物産株式会社よりすれば、右清水に上告会社代表取締役に代り本件手形二通を振出す権限のあるものと信ずるにつき、正当の事由があつたものであるとの趣旨の事実を認定して居るのである。されば、原審が右認定の事実に基き、上告会社に本件手形二通振出による責任があるものと判断したのは、正当である。原判決に所論の違法はない。また、論旨中、本件手形二通が所論の如き偽造のものであるとの事実を前提とする主張も亦、その前提において既に失当である。
論旨は、これを採用し得ない。
同第二点について。
論旨中、本件手形二通が、訴外清水晶により上告会社代表取締役の署名、印章を盗用して偽造されたものであるとの事実を前提として原判決を非難する部分は、原判示に添わない主張であつて、上告適法の理由とならない。また原審は、前叙の通り、本件手形二通の振出につき、右清水が権限を踰越して署名代理をなし、受取人となつた訴外相互物産株式会社に、同人が上告会社代表取締役に代り本件手形二通を振出す権限のあるものと信ずるにつき、正当の事由があつた事実を認定し、これに民法一一〇条を適用して、上告会社に右手形二通の振出の責任あるものと判断したのは、正当であつて、これに所論の違法はない。上告人引用の判例は、事案を異にする本件に適切でない。
論旨は、これを採用し得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐)