最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)286号 判決 1962年3月06日
上告人 赤池正美
被上告人 国
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理入相沢岩雄の上告理由第一点について。
民法四二四条一項但書にいわゆる受益者または転得者の善意の挙証責任は受益者または転得者自身に存するものと解すべきであり、同条を準用する国税徴収法一七八条の解釈としても、この理を異にしない。従つて、原判決は正当であつて、所論はひつきよう独自の見解を主張するものと言うべく、採用に値しない。
同第二点について。
原判決の確定した事実関係のもとにおいて、価額計二〇〇万円の本件土地建物を元本一三〇万円の貸金(利息日歩三銭、期限一年後)債権のいわゆる譲渡担保とし、期限に返済しないときはその所有権譲渡を確定的なものとする趣旨の契約をすることが、民法四二四条の取消の対象たる法律行為にあたるとした原審の判断は、正当として肯認できる。所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 五鬼上堅磐 河村又介 垂水克己 石坂修一)
上告代理人相沢岩雄の上告理由
第一点 原判決はその理由中において譲受人である控訴人においてその情を知らなかつたことを立証しないかぎり国税徴収法第一七八条、民法第四二四条(旧国税徴収法第一五条)の適用あるものとしている(五丁二十行目より六丁一行目にかけて)
しかし民法第四二四条第一項但書旧国税徴収法第一五条但書の規定はいずれも譲受人又は転得者が譲受又は転得の当時債権者を害すべき事実又はその情を知らざりしことを立証する責任のあることを規定したものではなく立証責任はいずれも一般原則にもとづき債権者にある。
よつて原判決は法律の解釈を誤つた違法がある。
第二点 債務者が相当代価で自已の財産を譲渡することは民法第四二四条(旧国税徴収法第十五条)の詐害行為は成立しないものと解すべきである。
なぜならこれをも詐害行為とすると債務者は経済的更生を計る機会を失うに至るからである。
しかるに原判決は訴外北沢常雄が相当代価である百三十万円の担保にその所有不動産を譲渡した本件につき詐害行為の成立を認めている。
よつて原判決には法律の解釈を誤つた違法がある。