最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)652号 判決 1964年4月21日
上告人
福島清太郎
右訴訟代理人弁護士
矢野宏
被上告人
南川雄八
右訴訟代理人弁護士
吉浦大蔵
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
(上告理由第一点、第二点の判示省略)
同第三点について。
原判決引用の第一審判決の確定するところによれば、原告(被上告人)は、訴外産経株式会社に自己または家族の名義で約二〇〇万円を預け入れたので、右訴外会社は本件約束手形一〇通を含む二〇数通の約束手形を原告または原告の家族に宛て振り出したところ、右訴外会社が昭和三〇年秋ごろから事業の行詰りを生じたので、原告は右訴外会社の前途に不安を抱き、右訴外会社の佐賀支店長であつた被告福島(上告人)に対し、本件各手形の共同振出人となることを要求した結果、被告福島はこれを承諾して昭和三一年三月一七日ごろ本件各手形の右訴外会社の振出署名に並べて被告福島の振出署名をなした。本件各手形中原告の家族に宛てて振り出されたものは、いずれも同年五月一三日原告に裏書譲渡され、原告は現に本件手形すべての所持人である、というのである。
以上の事実関係の下において上告人が右訴外会社の手形振出により既に受取人の所持に属している本件各手形に上告人の振出署名をなしたものであるから、改めて上告人よりこれを手形受取人に交付する行為をなさなくても、上告人は手形の共同振出人として手形権利者である被上告人に対し手形債務を負担するに至るものと解すべきである。原判決に所論の法律の解釈を誤つた違法がなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田中二郎 裁判官石坂修一 横田正俊 柏原語六)
上告代理人矢野宏の上告理由
(第一点、第二点省略)
第三点 原審に於て維持する第一審判決の理由によれば上告人を本件約束手形の振出人と認定し、振出人としての手形金支払債務の履行を命じている。然し上告人を約束手形の振出人と認定したことに於て原判決には手形法の解釈を誤つた違法がある。その理由は次のとおりである。
(中略)振出という行為は手形を作出する基本的行為であつて単に手形面に於ける振出人としての署名のみではなく、手形を名宛人に交付(又は発送)することを以てその内容とする。然るに本件に於ては手形が流通におかれた後、上告人が振出人の署名のそばに署名しただけである。そしてこのことは被上告人がさせたのであるから勿論、被上告人は悪意である。上告人に手形上又は手形外の保証人としての債務を認め之が履行を命ずるのなら格別、上告人を振出人と認定し、振出人としての債務の履行を命じた原判決には手形法の解釈を誤つた違法があるという所以である。