最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)618号 判決 1964年3月24日
上告人
岡崎清重
右訴訟代理人弁護士
原瓊城
被上告人
中小企業金融公庫
右代表者総裁
舟山正吉
従たる事務所の代理人
水野薫
右訴訟代理人弁護士
大川隆康
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人原瓊城の上告理由について。
原判決が上告人の本件訴旨を所論金一二〇万円の借受債務に対し昭和三〇年四月一五日金二〇万円を弁済した事実の確認を求めるものであるとして、かかる事実の確認を求める訴は、民訴法二二五条のごとく別段の規定ある場合にのみ許され、本件のような場合には、その訴は不適法であるから却下されねばならないとした判断は、正当である。
所論は、弁済は意思表示に準ずる行為であつて法律効果を伴わない行為ではない旨を云々するが、原審における上告人の本訴請求の趣旨は、その弁論の経過に徴し、現在の権利又は法律関係の存否の確認を求めるものとは到底解されず、所論は、ひつきよう、原審で主張しないことを前提とするか、ないしは、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、採用できない。
また、所論挙示の判例は、いずれも本件に適切でない。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官五鬼上堅磐 裁判官石坂修一 横田正俊 柏原語六 田中二郎)
上告代理人原瓊城の上告理由
確認の訴は法律関係に争があり其争を確定する利益のある場合に許される。地位身分意思表示の有無権利義務有無などについて争がありそれを確認する利益のある場合には許される。争ある消極的権利関係確認の訴が適法に成立することも(明治三四年(オ)第四〇四号同年一〇月三〇日大審院判決)又確認の訴は何等かの確認の利益があれば更に高度の権利保護の方法の有無を問はず許される。(大正一二年(オ)第八五五号同一三年五月三一日大審院判決)
今本件上告人請求趣旨によると、一二〇万円の債務に対し二〇万円を弁済した事実の確認を求めたものである。そして、弁済は意思表示なりや否は定説を知らないが、少くとも弁済は意思表示に準ずる行為であり、意思表示に関する幾多の条文は弁済行為にも準用せられるわけである。又弁済は債務消滅の原因として民法に於ても数多くの規定がなされている。従て弁済は何等の法律効果を伴はない行為ではない。
本件については、当事者双方主張によると弁済の有無という法律関係の存否が争われているわけであるから、勿論上告人に於て其存在を確認する利益がある。契約存否の争が裁判の対象となるなれば弁済有無の争が裁判の対象とならないわけはない。但し、本件弁済が貸金債権の元利金の何れに充当せられるかは弁済充当の原則により判断せられるものであつて直接本件と関係ない。
債務弁済が選択によつて充当のなされる場合選択権未行使中は充当未済の場合もあらうがそれと本訴とは関係ない。
原審は法律効果に関係のない単なる事実確認の訴が許されないとの観念に支配せられて、古くから確立せられている判例及法を誤つたものであると考へる。