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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)905号 判決 1963年12月03日

上告人 静岡資材株式会社

被上告人 静岡地方法務局長

訴訟代理人 館忠彦 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士鈴木信雄、同御宿和男、同吉田米蔵の上告理由は別紙のとおりである。

論旨は、原判決が、不動産登記法一条に該当しない事項は、法令上の根拠がない限り登記できない旨を判示したのを正当としながら、民訴法七五八条一項、三項は、処分の制限にあたらない場合にも、特に登記を許した法令である旨を主張するのである。しかし、右の三項は、登記簿記入を嘱託できる場含として「不動産ヲ譲渡シ又ハ抵当ト為スコトヲ禁シタルトキ」と規定しており、実体上の権利の処分禁止に該らない仮登記に基く本登記の禁止、仮登記についての移転登記の禁止までも、登記簿に記入せしめる趣旨と解することはできない。民訴法七五八条一項、三項を所論のように、不動産登記法一条の特則と解すべき理由はない。

論旨はまた、登記申請行為は、実質上不動産の処分に含まれ、少くとも処分に準ずべきであるというのであるが、登記の申請が、実体法上の不動産の処分と解されないことは、登記の効力の上からも明らかであり、登記そのものを禁止することをもつて不動産登記法一条の不動産に関する処分の制限と解することは到底できない。

かく解したからといつて、上告人がその権利を保全する途がなくはないことは原判示のとおりである。論旨は理由がない。

なお、論旨は、本件仮処分決定は「その他一切の処分」を禁止しており、少くも実体的権利変動を禁じた部分は登記事項であるというのであるが、本件仮処分決定の趣旨が登記だけについて禁止を命じた趣旨と解すべきことは原判示のとおりであり、論旨は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 河村又介 石坂修一 横田正俊)

上告理由

原判決は、民事訴訟法第七五八条第一項第三項及び不動産登記法第一条の解釈適用を誤つたものであり、且つ、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるので、破棄されるべきである。

第一、本件の概要及び争点

上告人の申請により、静岡地方裁判所は本件物件につき「訴外三河盛は訴外三河多賀次に対する所有権移転請求権保全仮登記に基く本登記手続その他一切の処分をしてはならない。訴外三河多賀次は右仮登記に基く本登記手続叉は仮登記移転付記登記手続その他一切の処分をしてはならない。」旨の仮処分決定を発し、その登記を静岡地方法務局金谷出張所に嘱託したところ、その嘱託が却下されたので、上告人が被上告人静岡地方法務局長に登記異議を申立てたが理由がないとして棄却された。

そこで、上告人は被上告人を被告として、右棄却処分の取消を求めて静岡地方裁判所に訴を提起したところ、同裁判所は上告人の請求を容認しにが、被上告人の控訴により、原審東京高等裁判所は第一審静岡地方裁判所とは全く反対の見解の下に控訴を容認したので、本件上告にいたつた。

本件は、右経過から明らかな如く、登記嘱託が許されるか否かを決するのが基本的命題であるが、そのためには、(1) 仮登記に基く本登記の禁止は登記事項か否か。(2) 本件仮処分決定及びその登記嘱託中、「その他一切の処分」とあるのは実体的権利変動の制限の趣旨か否か、が解決されなければならない問題である。

第二、本件仮処分決定の登記可能性

被上告人の主張は多岐にわたるがその要旨は、登記手続の禁止は不動産登記法第一条の「処分の制限」でなく、その他本件仮処分決定を登記しうる法令の根拠はなく、また、仮処分決定中「その他一切の処分」は実体的権利関係の変動とは解されないから、結局登記できないというにある。

上告人は、本件仮処分決定は登記しうるものであり、登記嘱託は受付けるべきであると信ずるが、その根拠は、すでに第一審以来詳述した通りであるのでここにこれを援用する他 以下の理由を追加主張する。

一、不動産登記法第一条に該当しない事項は特にこれを許す法令上の根拠がない限り登記できないことは原判決のいう通り(原判決六枚表)であるが、民事訴訟法第七五八条第一項第三項は特に許した法令である。

仮処分決定といえども無制限に登記しうるものではないが、その仮処分決定が、実質的にその不動産の処分を制限するものであれば登記しうるのである。

わが民法上、実体的物権変動行為とその対抗要件具備行為とは全く別に区別されていることは形式論上明らかであるが、社会における取引の実際を直視すれば、登記完了(又は、少なくとも登記申請書の受付完了)をもつて不動産取引の終結とみているのであり、登記は単に対抗要件にすぎず観念的な物権変動は別箇にあり得るとは認識されていないのである(例えば、最高裁判所事務総局綴民事裁判資料第六七号一二三頁。朝鮮高等法院大正一一年一月一一日判決。同院昭和六年二月六日判決、学説として雉本朗造博士判例批評録二巻。その他)。本件第一審判決も、右の社会的現実を深く洞察し、「登記申請行為は不動産処分の効力を完成させる効果を有し、実質上処分行為の一部とみなすべきものである」と喝破したのであつて(一〇枚表)もとより正当である。

登記申請行為は形式論理上は「処分」ではないとしても、実質上「処分」に含まれ、少なくとも「処分」に準ずるものである。

従つて、仮登記を本登記になすべく申請することを禁ずる本件仮処分決定は、実質的には「処分の制限」をなすものであり、少なくともそれに準ずるものであるから、民訴法第七五八条第一項が仮処分の目的を達するため自由に効果的な仮処分を発しうることを定めた趣旨にかんがみ、実賛的な「処分の制限」たる本件仮処分決定の如きは同条第三項に基き登記を許されるべきものである。

二、右の如く、民訴法第七五八条第三項は不動産登記法第一条の特則をなすものであるが、仮りに然らずとするも、右述の社会的現実に基き、本件仮処分決定の内容は、右登記法第一条の「処分の制限」ないしそれに準ずるものと解すべきである。

三、本件の如く、債務者三河盛が詐害行為の意図をもつて第三債務者三河多賀次に所有権移転請求保全登記がなされた後、債権者たる上告人が自己の債権を保全する有効適切な救済手段はない。

原判決は、かようなことは「結局現行登記制度の欠陥を主張するものであつて、解釈論としては、かような理由だけで本来不動産登記法その他の法令上登記の途のない禁止の登記がこの場合に限り許されるものと解することはできない」と判示する(八枚裏)が、著るしく形式論理に過ぎるのである。

上告人も、救済手段のないことの一事のみをもつて本件を登記すべしと極論するものではない。本件登記が許されるか否かは諸般の事情を綜合考慮して決すべきであるが、他に適切な救済手段のないことも、本件判断の重要な資料であるのである。

四、特に、仮登記の登録税は、不動産一筆につき僅かに金六〇円の廉価である(登録税法第二条第一項第一八号)ので詐害行為として最も濫用され易く、現に濫用されていること公知の事実である。かくの如く悪質な詐害行為を黙認することは法の意図するところではなく、正義の名において容認し得ざるところである。この故に、詐害行為を阻止する適切な法律手続を認めるべきであり、本件仮処分決定の必要性は多大である。

そして、仮処分決定も登記されないと善意の第三者に対抗し得ないのみならず、詐害行為が終局的に取消され仮登記も抹消されると仮登記を信じて仮登記名義人(又は、仮登記に基く本登記名義人)と取引関係に立つた善意の第三者に不測の損害を及ぼすに至るので、仮処分決定は登記する必要が多大にあるし、登記されないとその実効性はない。

五、以上の諸理由及びその他第一、二審における上告人の詳述並びに第一審判決説示等に基き、本件仮処分決定の如き仮処分は、永年にわたり受付け登記されてきた。

登記当局もこれを認め、少なくとも大正四年二月二〇日付司法省法務局長通達以来登記され来り、永年の安定した実務として処理されてきたのであるが、昭和三〇年八月二五日付法務省民事局長通達により突如として変更され、実務に混乱を来したのであつて、当否極めて疑問である(前示民事裁判資料六七号一一一頁以下)。

従前、右大正四年二月二〇日付通達東京控訴院大正九年二月二日決定等に支持されて登記されてきたのであり、学説もまた支持してきた(例えば、村松俊夫菊井維大両氏著「仮差押仮処分」二五三頁以下)実務の慣習に基く法的安定性も、前示「処分の制限」の解釈として充分に考慮されるべきである。

六、以上を綜合するときは、結局、仮登記に基く本登記の禁止は登記し得るものというべく、本件第一審判決こそ正当である。

そして、登記技術的にも、仮登記の左側余白欄に登記禁止事項を附記登記すればよいのである(同旨第一審判決。前示民事裁判資料六七号一一七頁)。

七、なお、本件仮処分決定は、登記禁止の他「その他一切の処分」を禁止している。

仮登記は本登記をすればその目的は達成されて消滅(仮登記を他に移転附記登記しても終局的には本登記により消滅)するのであるから、かかる登記以外に登記処分はあり得ない。従つて、「その他一切の処分」とは実体的権利変動以外に登記処分はあり得ない。従つて、「その他一切の処分」とは実体的権利変動以外に考えられず、本件仮処分決定においても実体的権利変動を指称しているのである。

従つて、仮りに登記禁止は登記が許されないとしても、少なくとも、右の実体的権利変動を禁じた部命は登記事項であり、この点をも無視して本件登記嘱託を却下した登記官吏の処分は違法であり、これと見解を同じくする原判決は違法である。

第三、結語

本件登記嘱託は受理すべく、これと同旨の第一審判決こそ正当であつて、これと反する第二審判決は違法である。

原判決は、本件登記嘱託の適否を検討するにあたり、検討すべき問題点毎に分離した上、極めて形式論理的に判断して民訴法第七五八条第一項第三項不動産登記法第一条を解釈したのであつて、広い視野に立つた総合的判断を欠き、右法条の解釈を誤つたものである。

このため、前示東京控訴院及び朝鮮高等法院の判例に違反したのである。

本件は、右法条の解釈の如何によつて結論を異にするものであり、原審の右法条解釈適用の誤りは直ちに判決主文に影響を及ぼしているので、民事訴訟法第三九四条に基き原判決は破棄を免れない。

よつて、原判決を破棄し、然るべき判決を得たく、本件上告に及んだのである。

以上

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