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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)1053号 判決 1967年5月30日

上告人

渡辺政五郎

右訴訟代理人

渡辺敏郎

被上告人

戸高キヨウ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺敏郎の上告理由第一点について。

論旨は、昭和三七年三月二九日法律第四〇号による改正前の民法八八七条・八八八条・九三九条の施行当時において、相続人が被相続人の妻と子である場合に子の全員が相続の放棄をしたときは、放棄者の相続分は被相続人の孫に帰属するものと解すべきであるのに、放棄者の相続分は妻に帰属し妻が単独相続をすると解した原判決は前記各法条の解釈を誤つた違法があるという。

しかし、改正前の右九三九条二項は、放棄者の相続分は他の相続人の相続分に応じてこれに帰属すると規定しているところ、本件においては、子が全員放棄し、他の相続人としては妻が存在するのみであるから、放棄者たる子の相続分は全部妻に帰属し妻が単独相続をすると解するのが正当である。けだし、同項は、同順位の相続人があるかぎり次順位の相続人(本件においては被相続人の孫)が繰り上つて相続人となることを予想していないからである。新民法における相続制度は、血族相続権と配偶相続権とを別種併立のものとしていることは明らかであるが、それであるからといつて同項の明文に反する論旨の見解は採用することができない。

同第二点について。

相続の放棄は、それによつて相続債権者に損害を加える結果となり、また放棄者がそれを目的とし、もしくは認識してなされたとしても、民法が相続放棄の自由を認めている以上、無効と解すべきではない。論旨の見解は採用することができない。

同第三点について。

原判決の所論の各事実認定は、挙示の証拠に照らして是認できなくはない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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