最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)1419号 判決 1967年3月28日
上告人
千原武
右訴訟代理人
中川利吉
磯村義利
被上告人
安心院吉益
右訴訟代理人
梅木実
参加人
梶原茂
主文
原判決中、上告人の被上告人に対する日田市大字高瀬字銭渕五番の一原野二畝八歩に関する請求につき上告人の控訴を棄却した部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
上告人の被上告人に対するその余の請求に関する上告を棄却する。
右請求に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人磯村義利の上告理由第一点について。
上告人(原告)は、日田市大字高瀬字銭渕五番の一原野二畝八歩が上告人の所有であるところ、これにつき無断で被上告人(被告)名義に所有権移転登記手続がなされているとの理由で、被上告人に対しその抹消登記手続を求めた。これに対し、被上告人は、同地がかつて上告人所有であつたことを認め、被上告人は、昭和三三年八月二一日上告人より他の三筆の土地とともにこれを代金一万円で買い受けた旨を主張した。ところで、上告人において右五番の一に該当すると主張する土地と被上告人において上告人より買い受けたと主張する土地とがその位置において原判決添付図面のとおりに異なつていることは記録上明らかである。
この場合、上告人の右請求を排斥するためには、被上告人が上告人より公簿上右五番の一に該当する土地を買い受けた事実を説示しなければならない。しかるに、原判決は、公簿上右五番の一に該当する土地について上告人被上告人間に売買契約がなされた旨を判示するものではなく、被上告人が一方的に右五番の一に該当すると主張する部分の土地について売買契約が締結された事実を確定しただけで、右売買契約の対象となつた土地が果して公簿上右五番の一に該当する土地であるかどうかの事実を確定することなく直ちに上告人の前記請求を排斥したものであること判文上明らかである。原判決は、この点において理由不備の違法があり、原判決中、右五番の一についての上告人の請求を排斥した部分は破棄を免れず、前記の点についての審理判断の必要上、右部分につき本件を原審福岡高等裁判所に差し戻すこととする。
なお、所論は、上告人の本訴請求中、前同所二番の三雑種地一八歩、同所五番の二雑種地二歩、同所五番の三原野二歩について被上告人に対し被上告人名義の所有権取得登記の抹消登記手続を求める部分についても、前記四筆の土地が同一の契約により売買されたことを根拠として原判決の違法をいうが、そのように解すべき理由がないから、この点に関する論旨は採用できない。
同第二点ないし第四点および上告代理人中川利吉の上告理由について。
所論の点に関する原判決の事実認定は、原判決挙示の証拠により肯認できるから、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難することに帰し、採用できない。
よつて、民訴法四〇七条、三九五条、三八四条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(柏原語六 田中二郎 下村三郎)