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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)767号 判決 1965年9月21日

上告人

影山勇

代理人

伊藤俊郎

被上告人

武田元信

代理人

今野佐内

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人伊藤俊郎の上告理由について。

原判決の確定した事実によると、本件土地は小沼貞雄の所有であつたが、昭和一七年六月に武田ユウがこれを賃借し地上に本件家屋を所有して居住していたところ、武田ユウの二女・ヨシ子の夫である上告人が昭和三四年七月に小沼から本件土地を買い受け移転登記を経由して本件土地賃貸人たる地位を承継した、ユウは昭和三四年一〇月に本件家屋を長女・ミチエの長男である被上告人に贈与し、移転登記を了したが、本件家屋には、従前と同じく、ユウ、ミチエ、被上告人が同居しており、本件贈与の後も被上告人らの本件土地の使用状況には以前となんら変つた点はなく、ユウ、将来本件家屋において自分とミチエ(精神薄弱者)の面倒を被上告人に見て貰うために、同居している孫の被上告人に贈与したのであつて、ヨシ子の相続権を害する意図に基づいたものではないというのであるから、原判決が、右当事者の身分関係、生活状況、建物贈与の理由から考えれば、本件贈与とともに土地賃借権を譲渡または転貸したのは、土地賃貸人たる上告人の承諾を得ていなくとも、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を裏切る性質のものではなく、賃貸人に解除権が発生せず、賃貸人たる上告人は譲受人(または転借人)たる被上告人に対して土地明渡を求めることはできないと判断したことは、民法六一二条の解釈として是認することができる(昭和三九年六月三〇日第三小法廷判決、民集一八巻五号九九一頁参照)。上告人の主張する事実は、その主張自体上告人が本件土地賃貸人になる前に発生した本件家屋使用に関する特別の事情であつて、本件土地賃貸借関係に関するものではないから、右判断に消長を及ぼさないのみならず、本件家屋を上告人が使用するための改築の申出をユウが一旦承諾しながら後にこれを拒絶したとの事実は、原判決の否定しているところであるから、原判決がこの事実を考慮しなかつたからといつて所論の違法があるとはいえない。また、ヨシ子は遺留分滅殺請求権を行使すればよいのであるから、本件贈与により、その相続権が侵害されたともいえない。論旨は理由なく、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六)

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