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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1435号 判決 1967年2月21日

上告人

増井清栄

上告人

山本巌郎

右両名訴訟代理人

堂下芳一

服部明義

被上告人

三尾恭子

右訴訟代理人

竹中竜雄

主文

原判決中、上告人増井清栄に対して昭和三三年一月一日から同三五年八月二日まで一箇月一、六〇〇円の割合の金員の連帯支払を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却する。

上告人増井清栄のその余の部分に対する上告を棄却する。

上告人山本巌郎の上告を棄却する。

訴訟の総費用はこれを二〇分し、その一を被上告人その余を上告人らの負担とする。

理由

上告代理人堂下芳一、同服部明義の上告理由第一について。

原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)が確定した事実関係のもとにおいては、上告人増井清栄は亡山本安太郎の内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、右安太郎の死亡後はその相続人である上告人山本巌郎ら四名の賃借権を援用して被上告人に対し本件家屋に居住する権利を主張することができると解すべきである(最高裁昭和三四年(オ)第六九二号、同三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二四五五頁参照)。しかし、それであるからといつて、上告人増井が前記四名の共同相続人らと並んで本件家屋の共同賃借人となるわけではない。したがつて、安太郎の死亡後にあつては同上告人もまた上告人山本ら四名とともに本件家屋の賃借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。

原判決には右のような違法があるが、本件家屋の賃貸借関係について他の共同賃借人三名の代理権を有していた上告人両名に対して被上告人の先代三尾常次郎がした該賃貸借契約解除の意思表示が有効であること後記(上告理由第二、第三についての判断説示参照)のとおりであるから、右の違法は上告人らに対して本件家屋の明渡を命じた原判決にはなんら影響を及ぼすものでないことは明らかである。また、原審確定の事実によれば、右賃貸借の終了後は上告人らはいずれも本件家屋を法律上の権原なくして占有し賃料相当額の損害を加えつつあるというのであるから、上告人らに対してその不法占有期間について右損害金の連帯支払を命じた原判決にも影響がないものというべきである(被上告人の損害金の請求は、債務不履行に行づくものと不法行為に基づくものとが選択的になされているものと解される。)。

しかしながら、上告人増井は、前記のとおり、安太郎の死亡後本件家屋の賃借人となつたのではなく、したがつて、昭和三三年一月一日から本件賃貸借の終了した昭和三五年八月二日までの間の賃料の支払債務を負わないものというべきであるから、原判決中同上告人に対して右賃料の支払を命じた部分は失当として破棄を免れず、右部分についての被上告人の本訴請求は棄却すべきものである。

同第二、第三について。

原判決が確定した事実関係(所論のように、山本満智子が昭和三五年当時の住民票のうえで別世帯を構成していたとしても、その結論に影響がない。)のもとにおいては、上告人両名は本件家屋の賃借権を相続により取得した山本満智子、山本敬子および山本義子の三名の代理人として被上告人の先代三尾常次郎のした本件催告ならびに賃貸借契約解除の意思表示を受領したものと認めるべきであるから右三名にも本件解除の効力が及ぶものとした所論原判示は、正当というべきである。また、所論は、上告人らの右代理関係の事実については被上告人が原審において主張していないところであるというが、本件記録に現われた被上告人の主張の全趣旨に徴すれば、所論の事実をも主張するものと解しえないものではないから、原審には所論弁論主義違背があるとすることもできない。論旨は、ひつきよう、独自の法律的見解に立却するか、もしくは原判示にそわない事実を前提として、原判決を非難するものであつて、採用するを得ない。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

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