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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)404号 判決 1968年4月23日

上告人

権田鎮雄

被上告人

右代表者法務大臣

赤間文三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論は、昭和二一年一月二六日農林省告示一四号は、農地調整法九条の二および同法施行令一二条に基づき、金納小作料米価を一石につき七五円と定めたが、かくの如く一般物価に比較して著しく低い金納小作料米価を定めた右措置は憲法二九条に違反するものと主張する。しかし、財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定められるべきものであつて、公共の福祉を増進しまたは維持するため必要のある場合には、財産権の使用収益または処分の権利に制限が加えられるのはやむをえないところであり、また、財産権の価格について、特定の制限がなされ自由な取引による価格の成立が許容されなくても、右はなんら憲法二九条に違反しないと解すべきことは、当裁判所大法廷判決の明示するところである(当裁判所昭和二五年(オ)第九八号、同二八年一二月二三日大法廷判決、集七巻一三号一五二三頁参照)。そして、農地は、自作農創設特別措置法成立までに、すでに自由処分および使用目的を制限され、小作料は金納と定められて一定の額に据え置かれ、農地の価格そのものも特定の基準に統制され市場価格を生ずる余地なきにいたつていたのであつて、同法成立以後における諸物価の値上がりとの関係についてみても、農地に最も密接な関係にある米価は数回にわたり改訂されていることが認められるが、右米価の改訂は戦後における経済事情の急変により主として生産費が著しく上昇したのに対応した措置であり、生産者たる耕作者を基準とする米価対策のうえから必要とされた措置であつて、生産そのものに直接に関与しない地主たる農地所有者に対し、その農地価格をこれに応じ改訂しなくても憲法二九条に違反すると解すべきではなく、また、法律による公定または統制価格の設定は、公共の福祉のためになされるのであつて、右価格は必ずしも当時の経済状態における収益に適合する価格と完全に一致することを要せず、まして自由な取引において成立すると考えられる価格と一致することを要するものではないと解すべきことも、前記大法廷判決の明示するところである。右大法廷判決の趣旨に徴すれば、農地調整法九条の二、同法施行令一二条に基づく農林省告示が、前記のように、金納小作料米価を一石につき七五円と定めたことは、農地所有権に対する公共の福祉の見地からの合理的な制限であつて、なんら憲法二九条に違反するものではないと解するのが相当である。なお、論旨中、憲法一一条ないし一四条違反を主張する部分は、その実質において、同法二九条違反の主張に帰し、いずれも、採用のかぎりではない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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