最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)692号 判決 1967年5月23日
上告人(原告・被控訴人・附帯控訴人) 藤田三四郎
右訴訟代理人弁護士 中野正綱
被上告人(被告・控訴人) 中野駿
被上告人(被告・控訴人・附帯被控訴人) 坪田武男
被上告人(被告・控訴人・附帯被控訴人) 坪田忠五
右両名訴訟代理人弁護士 尾崎重敏
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中野正綱の上告理由第一、第二について
所論は、ひっきょう、原審が適法にした証拠の取捨判断および事実認定を非難するに帰し、採用できない。
同第三、第四について。
原審が認定したところによれば、昭和三三年一二月二七日被上告人中野駿と上告人との間で、土地の買受転売という共同事業の資金として同被上告人から上告人に提供してあった五〇万円についての上告人の返還債務につき、その弁済期を昭和三四年六月二七日、利息を一箇月三分毎月払とする準消費貸借および弁済期に右五〇万円を返済しないことを条件として代物弁済により本件建物の所有権を同被上告人に移転する旨の停止条件付代物弁済契約が成立したというのである。
ところで、右一箇月三分の利息の定めは利息制限法に違反すると主張する論旨一には一応の理由はある。けだし、同被上告人が右五〇万円の資金を調達するにつき訴外朝比奈鉄五郎から利息一箇月三分とすることを約して借り受けたからといって、本件準消費貸借において同額の利息を約することを正当づける理由とはならないからである。したがって、本件準消費貸借契約に基づき上告人が支払った利息のうち問題の制限を超過する部分は、所論のように、元本に充当さるべきものである。
しかしながら、本件のような債権担保の機能を営む停止条件付代物弁済契約においては、被担保債権の一部弁済があったにすぎない場合には、反対の特約もしくは権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、右代物弁済契約の効力に消長をきたさないものと解すべきであるところ(最高裁昭和四〇年(オ)第八九五号、同年一二月一七日第二小法廷判決、最高裁裁判集民事八一号六二九頁、代物弁済の予約につき、最高裁昭和三九年(オ)第一三六七号、同四〇年一二月三日第二小法廷判決、民集一九巻九号二〇七一頁各参照)、原判示事実関係のもとにおいては、上告人が支払った前記制限超過利息の元本充当分を含む一部弁済によって本件準消費貸借の残元本が所論のとおりになっていたとしても、条件成就によって代物弁済の効果を生ぜしめることが暴利行為ないし権利濫用とは認められないし、その他、上告人において反対の特約を主張・立証していない本件では、利息制限法違反をいう論旨一は、原判決の結論に影響のない主張に帰すること明らかであり、また、本件元本残額をもってする代物弁済の効果を争う論旨四の主張部分も理由がない。
本件代物弁済契約に基づき、被上告人中野駿がその権利を行使する場合には、前記一部弁済額(制限超過利息の元本充当分を含む)を上告人に不当利得として返済すべき義務を負うと解すべきことは、原判示のとおりであるが、上告人がその不当利得の返還請求権に基づく同時履行の抗弁権を主張していない本件においては、その点をとくに顧慮判断しない原審に所論(論旨四末尾)の違法があるということはできない(右論旨に指摘する程度の上告人の主張をもって、右同時履行の抗弁権を主張したものと解することはできないし、原審に所論釈明権不行使の違法があるということもできない。)。
つぎに、論旨二は、本件準消費貸借契約における元本債権の弁済期以前に被上告人中野駿のした本件仮登記に基づく本登記を有効とした原判示を非難し、また、論旨三は、右本登記に際して同被上告人が使用した委任状、印鑑証明書等が、上告人から同被上告人に別途目的のために交付されていたものであるのに、同被上告人がこれを利用して右本登記をしたものであるとしても、右本登記は実体関係に符合し上告人においてこれが抹消登記を請求しうる限りでないとした原判決を非難するが、原審認定の本件事実関係に照らせば、所論原判示判断は、いずれも、正当として是認すべきであり、所論のような違法はない。
その他、論旨は各所において原審の事実認定を非難し、法令違背を主張するが、いずれも採るに足りない。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)
上告代理人中嶋正起の上告理由<省略>