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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(あ)1622号 決定 1967年12月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意(二通)は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

弁護人牧野芳夫の上告趣意は、憲法二九条違反をいう点もあるが、実質はすべて、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

弁護人森鋼平の上告趣意のうち、判例違反を主張する点は、引用の各判例は、本件と事案を異にして、適切でないから、所論は前提を欠き、その余の論旨は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。(第一、二審判決の判示するところによれば、被告人は、本件仮処分執行前に、その目的物となった東京都足立区千住柳町一一番地所在木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建工場一棟(以下本件建物という。)の実質上の買受人となり、売主柳五作から交付されたその鍵を所持していたというのであり、また、第一審判決が証拠として掲げる被告人の検察官に対する供述調書等によれば、被告人はその頃時々本件建物の見回りにも行っていたという事実がうかがわれるのである。そして、建物に対する占有があるというためには、右程度の事実があれば十分であると解すべきであるから、本件仮処分の執行に着手した当時、被告人に本件建物の占有がなかったとした原判断はあやまりであるといわざるを得ない。また、右仮処分の執行当時、その債務者とされた柳五作は、既に他に転居し、本件建物に対する占有を有しなかったと認めるべきことは、記録中に存在する本件仮処分に先き立って行なわれた二回の仮処分執行の際作成された執行中止調書(二通)によっても明らかであり、従って、本件仮処分の執行は、実際に本件建物を占有していた者は被告人であったのに、執行にあたった執行吏代理がこれを債務者柳五作の占有と誤認した結果なされたものであって、その執行の方法をあやまったものというべきである。しかしながら、右執行に際し、右執行吏代理に故意に第三者の権利を侵害する目的があったとは認められず、また、その執行の瑕疵が重大かつ明白であって、執行行為そのものが無効あるいは不存在と認められるような場合でもなかったことは原判決の判示するとおりであるから、執行吏の占有保管に移すという本件仮処分の執行とその旨の公示とによって、第三者である被告人の占有も制限を受け、執行方法の異議もしくは第三者異議の訴によって、その取消を求めない限り、本件家屋に入居することは許されなくなったものと解すべきである。そうすると、被告人が、本件仮処分の取消を得ないうちに、あえて本件家屋に入居したことは、執行吏の占有を侵害し、その差押の標示を無効ならしめたものとして封印破棄罪にあたるものといわざるを得ないから、被告人を有罪とした原判決は、結論において相当であり、前記事実誤認ないし法令の違反は判決に影響を及ぼさないものというべきである。)

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

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