最高裁判所第三小法廷 昭和41年(し)39号 決定 1966年7月26日
主文
原決定を取り消す。
本件を千葉地方裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告申立の理由は、末尾添付各書面記載のとおりである。
所論は、本件のように刑訴法三九条一項所定の弁護人となろうとする者と被告人との接見が妨げられた場合につき、原決定が、なんら司法上の救済方法がないと判断したことを前提として、憲法三二条、三四条、三七条三項違反を主張する。しかし、原決定は、その表現方法において適切を欠く点もあるが、その趣旨とするところは、右のような場合につき、刑事手続上格別の救済方法がないということであり、一切法的な救済方法がないとまで断じているわけではないから、憲法違反の論旨はその前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な特別抗告の理由に当らない。
ところで、職権によつて調査すると、千葉中央警察署司法警察員日乙義忠は、捜査本部の上司から、本件被告人に対する弁護人接見の場合は検察官の指揮を受けよとの命を受けており、弁護人鈴木元子の接見申入に対し検察官の承諾をうることを求めたこと、検察官山岡文雄は、同弁護人の接見時間につき、「一時二〇分までよい」との指定をしていること、右日色は、本件申立人小島、山口、川越三弁護士の接見申入に対し、検察官の承諾をうることを求めたこと、本件申立人山本の接見が拒否されたのち四日目に、水嶋、岩崎弁護士が同様被告人に接見の申入をしたところ、右山岡は、他に余罪が多数あることから、本件は被告事件としてよりも被疑事件としての重要な特色をもち、被告事件の弁護人は事実上被疑事件の弁護人でもあるとして、接見を拒否したことが、一件記録によつて認められる。
してみると、本件検察官および司法警察員は、被告人の弁護人(弁護人となろうとする者についても同じ。)であつても、余罪の関係では被疑者の弁護人であり、したがつて、刑訴法三九条一項の接見については、なお同条三項の指定権に基づく制約をなしうるものとの解釈のもとに、本件四名の接見を拒否した疑いが濃厚であり、これに反する原決定の判断は、重大な事実誤認の疑いがあるといわなければならない。
およそ、公訴の提起後は、余罪について捜査の必要がある場合であつても、検察官等は、被告事件の弁護人または弁護人となろうとする者に対し、同三九条三項の指定権を行使しえないものと解すべきであり、検察官等がそのような権限があるものと誤解して、同条一項の接見等を拒否した場合、その処分に不服がある者は、同四三〇条により準抗告を申し立てうるものと解するのを相当とする。
してみれば、原決定が本件準抗告を不適法とした判断は誤りであり、これを破棄しなければいちじるしく正義に反すると認められるから、原決定は取消しを免れない。
よつて、同四三四条、四二六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(柏原語六 五鬼上堅磐 田中二郎 下村三郎)
特別抗告の申立
抗告人小島将利
同山口博久
同川越憲治
特別抗告の趣旨
一、原決定を破棄する。
二、昭和四一年五月一六日千葉地方検察庁検察官検事山岡文雄、千葉中央警察署司法警察員日色義忠が、被告人鈴木充(千葉地裁昭和四一年(わ)第一五四号傷害被告事件)について、弁護人となろうとする抗告人らとの接見を禁止した処分はこれを取消す。
三、右両名は抗告人らを、被告人鈴木充と自由に接見交通させねばならない。との決定を求める。
特別抗告の理由
原決定は憲法第三四条、三七条三項、三二条に違反する。
一、刑事訴訟法第三九条一項は「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下弁護人とのみ称する)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる」と規定して弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通の自由を保障している。これは憲法第三四条、三七条三項の弁護人依頼権を実質的に理由あらしめる為欠くべからざる権利として認められたものであつて、憲法の予想する当事者主義訴訟構造から当然要請される被告人又は被疑者の防禦権を保障する規定である。
従つて被告人又は被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権は憲法の保障する弁護人依頼権の中に当然包含されるものであり、いわば憲法上の保障を具体化した規定であると解すべきである。
斯様にして刑事訴訟法三九条一項は、被告人又は被疑者にとつても最も重要な防禦権である接見交通権を保障した原則規定であり何人であろうとも弁護人と被告人との接見を制約し、妨害することは許さないことを明確にしているのである。
たゞ同条三項において特別の場合に限り例外として(然も非常に厳格な要件の下に)捜査機関が右接見交通の自由を制約することを認めている。即ち同項の規定するところによると検察官又は司法警察職員が、例外的に弁護人の接見交通権制限が出来る場合は「捜査上必要があるとき公訴提起前に限つて第一項の(被告人、及び被疑者)接見又は物の授受に関し、その日時場所及び時間を指定することが出来る」に過ぎないのであつて右要件を具備しない限り、如何なる制約(日時、場所、時間の指定)も許されないのである。
為るに本件の場合についてみれば被告人鈴木充は昭和四一年四月二九日傷害事実について千葉地方裁判所に公訴を提起され、右事実により千葉中央警察署留置場に勾留されていたものであることは争いない事実である。してみると同人と同人の弁護人となろうとする抗告人等との接見を制約することが出来ないことは同条三項の文言に照して明らかである。にも拘らず検察官山岡文雄及び司法警察員日色義忠は抗告人等の被告人との接見の申入れを拒否したものであつて、検察官等の斯る所為は明らかに刑事訴訟法三九条三項に違反するものと云わなければならない。
然るに原決定は右検察官の処分は同法三九条三項の処分に該当しないものであるが如き判断をして抗告人等の本件申立を棄却しているのである。
然しながら前叙の通り被告人と弁護人との接見交通権を制約し得る場合は同法三九条三項において認められた要件を具備する場合に限られるのであつて同項以外に右権利を制約する根拠は存しないのである。
されば検察官が同項の要件を具備しないにも拘らず抗告人等の接見交通権を妨害し、被告人との面会を拒否した所為は正に同条三項の不当な処分に他ならないものと云うべきであり、原決定はこの点に対する判断を誤つたものと云わなければならない。
二、仮りに右検察官の接見拒否の処分が同法三九条三項の処分に該当しないとしても、同処分に対して同法四三〇条の準抗告を許さないとする原決定の判断は同条の解釈を誤つたものである。何故ならば、右検察官の処分が同法八一条、三九条に違反することは明らかであり、この点については原決定も認めているものと解される。
然るに斯る違法な処分に対して何等の救済方法がないというのは憲法三二条の「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」とする理念に反することは明らかである。原決定の判断によれば本件の如き検察官の違法な処分に対しては何等の救済方法がなく憲法の予想する弁護権の保障が蹂されてもただ傍観するを余儀なくされることになつてしまうのである。
果して、原決定は斯る場合の救済は行政事件訴訟法、行政不服審査法、(但し同法四条六項)等によるべきだとでも考えているのであろうか。斯る方法が刑事被告人の人権を確保するのに如何に無力で迂遠な方法であるかは言を待たないところであつて斯くしては被告人の防禦権の保障は全く有名無実にだしてしまうのではなかろうか。
そもそも刑事訴訟法四三〇条の立法趣旨は、例外的に認められた同法三九条三項の接見交通権に対する制限処分についてすら救済の道を開き以つて憲法三四条、三七条三項の弁護人選任権をより確実に保障せんとして制約的救済方法を定めたものである。
されば原則規定である刑事訴訟法三九条一項の権利が何等の根拠もなく不当に制限された場合は同条三項違反の処分にもまして救済を必要とすることは自明の理であつて同法四三〇条も同法三九条一項に対する不当処分、違法な接見交通権の侵害につき当然その救済を予想しているものと云うべきである。
三、更に原決定は右検察官の処分は行政処分である故をもつて司法的救済の道はない如く述べているが斯る理論的必然性は存しない。特に本件において問題となつている検察官の処分は司法的行政処分とでも言うべき性質のものであり、これが救済の方法として、司法手続によらしめることは何等差支えない、現に刑事訴訟法三九条三項の処分も同様の性質を有する行為であるにも拘らずこれに対して同法四三〇条による司法的救済規定を設けているのである。これはその処分の性質から迅速な司法的救済を必要としているからであつて、この趣旨においては同法三九条一項の権利を妨害する処分についても全く同様である。
然るに原決定は何等の理論的根拠も明示することなく漫然と司法的救済方法がないと判断しているのであつて斯る態度は裁判所が自らの権限を放棄、縮少させ、その結果として、裁判所が守るべき国民の人権を蔑にしているものと言う他ない。
四、最後に原決定は「被告人との接見交通権については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整については司法的措置をとていない云々」と述べている。
然し関係人の良識とは、検察官、弁護人の話合により解決すると云うことであろうが、若し話合が出来なければ結局弁護人は被告人と接見することができず検察官の主張通りの結果を承認する他ないのである。本来法は何れかの当事者が良識を欠く行為に出た場合にこそ働くものであつて、これに救済措置がないと云うのは裁判所の存在意義が失われるものと云わなければならない。憲法八一条によれば最高裁判所は一切の処分について司法審査をする権限と責務があることを宣言しているのであつて、この理念からしても「関係人の良識により解決すべきであり、司法的措置はとらない」とする原決定の判断は誤つている特に本件被告人に対しては既に公訴が提起されているのであつて同人の勾留に関する権限は挙げて裁判所にあるのであるから同人の身柄についての争いには当然当該裁判所が調整し、解決すべき権限と責務があると云わなければならない。
尚以上の主張の他、原審における抗告人等の意見書及び原審における相抗告人山本幸子の特別抗告の理由を援用する。以上何れの観点からするも原決定の判断には承服出来ないので申立の趣旨記載の通りの決定を求める。
特別抗告申立書
抗告人山本幸子
申立の趣旨
被告人鈴木充に対する傷害被告事件について、昭和四一年五月二一日千葉地方裁判所第一刑事部がなした申立人の準抗告の申立を棄却するとの決定はこれを取消し、千葉地方検察庁検察官富田康次、同山岡文雄のなした申立人に対する被告人鈴木充との接見交通拒否の処分を取消す。
との御決定を求める。
申立の理由
第一点 原決定は憲法第三二条及び同法第三七条三項に違反する。
即ち、原決定はその理由第五項において「刑事訴訟法三九条一項、八一条所定の被告人と弁護士又は弁護人となろうとする者との接見交通権に関する規制については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整につき格別の司法的措置をとつていないことは、同法四三〇条、三九条を対照考察すればまことに明白である」と判断して抗告人の主張を排斥した。
しかしながら、被告人と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通は憲法三四条、三七条三項によつて保障されている被告人の弁護人選任権を実効あらしめる為かくべからざのものであり、従つて両者間の接見交通権は右権利に当然含まれているものである。
刑事訴訟法三九条一項が「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権」を規定し、同条二項において特別の場合に限り例外として制限する旨規定したのは、右憲法上の当然の権利を明確にしたものにすぎない。従つて右接見交通権が捜査機関により不当に侵害される場合には法的救済即ち、裁判所による救済を受ける権利も当然憲法三四条三七条三項の保障している弁護人選任権に含まれているものといわなければならない。刑事訴訟法三九条三項の例外の運用について同法四三〇条の準抗告による救済を認めているのも当然の事理を明確にしたものである。このことは憲法三二条の趣旨からも明かである。
本件の場合についていえば、抗告人は昭和四一年五月一七日被告人鈴木充につき千葉地方裁判所昭和四一年(わ)一五四号傷害被告事件に関し右鈴木の依頼により弁護人となろうとする弁護士として右鈴木の弁護人弁護士鈴木元子と同道して被告人鈴木の勾留されている場所たる代用監獄千葉中央警察署留置場に赴き、右鈴木に接見しようとしたところ、千葉地方検察庁検察官富田康次、同山岡文雄は右被告人鈴木の両親又は配偶者の依頼が必要で被告人のみの依頼では依頼を受けたとは認めないとの理由でこれを拒否したものである。右検察官等の被告人の依頼により弁護人となろうとする者に対する接見拒否処分は明かに憲法三四条、三七条三項によつて認められた被告人の権利を侵害するものであるにも拘らず、原決定が「刑事訴訟法三九条一項八一条所定の被告人と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権に関する規制については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整につき格別の司法的措置をとつていない」と判断したことは、右憲法三四、三七条三項及び同法三二条の規定の解釈を誤り、憲法上認められた被告人の権利を不当に侵害するものである。
第二点、原決定は刑事訴訟法四三〇条の解釈を誤つたものであつて、原決定を破棄しなければ著しく正義に反する。
即ち、原決定は「司法的色彩の強い行政処分である刑事訴訟法三九条三項所定の処分、その他所定の処分については関係人にとつて利害関係の大きいところからこれに対する不服を準抗告の対象として取り上げているが、同法三九条一項八一条所定の被告人と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権に関する規制については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整につき格別の司法的措置をとつていない」と判断して準抗告を棄却した。
しかしながら、刑事訴訟法三九条一項は身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人となろうとする者と接見等をする事ができるという原則を規定し、同条三項は被疑者の場合に限り捜査機関が捜査の必要上日時、場所、時間を指定することができるという例外を認めているものであり、同法四三〇条一項が検察官等のした同法三九条三項の処分に対し裁判所の救済を認めているのは例外の場合の運用が適正に行われるのを保障される為に設けられているものである。従つて、同法四三〇条が「検察官又は検察事務官のした第三九条三項の処分云々」と規定しているけれども、これは検察官が被疑者又は被告人の接見交通を拒否するという様な違法な行為には出ないということを前提としてその様な文言を用いているに過ぎないのであつて、右の様な行為にでた場合には検察官等が同条三項により被疑者との接見交通の日時、場所、時間の指定する処分が不当な場合に比し、より以上に裁判所の救済を求める必要のあることは言うまでもない。
これを他の角度からみると、検察官等が被疑者と弁護人又は弁護人となろうとするものとの接見交通を拒否するのは同法三九条三項に違反してゼロの日時、場所、時間を指定することにほかならず、被告人に対する接見を拒否するのは、同項に違反して公訴の提起後に且つゼロの日時、場所、時間を指定することにほかならないのである。従つて、右四三〇条に「三九条三項の処分」とあるのは単に検察官等が被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見等の日時、場所、時間の指定処分、又は検察官等がその処分に当つて三九条三項を適用したと称している処分のみならず、広く検察官等が為した被告人又は被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通を制限する等、検察官等が三九条一項を制限する場合の処分を言うものと解すべきである。
原決定が「刑事訴訟法三九条一項、八一条所定の被告人と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権に関する規制については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整につき格別の司法的措置をとつていない」と判断したことは同法四三〇条の解釈を誤つたものであり、本末顛倒も甚しきものであつて、このことは憲法により定められた被告人の基本的人権に関するものであつて、原決定を破棄しなければ著しく正義に反する。
以上、如何なる点からも原決定は取消さるべきものと思料し、速かに申立趣旨通りの御決定あらんことを求める次第である。
【原審決定】(昭和四一年(む)第一八号、第二一号併合事件)
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
第一、申立の趣旨並びにその理由
(一)(イ) 申立人小島、同山口、同川越の申立の趣旨
頭書検察官山岡文雄、司法警察員日色義忠は頭書被告人鈴木充と右申立人等とを頭書被告事件につき自由に接見、交通させねばならないとの決定を求める。
(ロ) 申立人小島、同山口、同川越の申立の理由の要旨
(A) 右申立人等は右被告人鈴木充につき右被告事件に関し、弁護人を選任し得る者の依頼により、弁護人となろうとする弁護士であるが、昭和四一年五月一六日右鈴木の勾留されている場所たる代用監獄千葉中央警察署留置場に赴き、右鈴木に接見しようとしたところ、右検察官山岡文雄、右司法警察員日色義忠はこの接見を拒否した。
(B) 元来弁護人を選任し得る者の依頼により弁護人となろうとする弁護士は被告人と自由秘密交通権を有することは明白である。
(C) しかるに右検察官、司法警察員は何等の理由なくしてこの接見を拒否したのである。
(D) 尤も右検察官、司法警察員は接見拒否の根拠を刑事訴訟法三九条三項にもとめるものの如くであるが、同条項の制限は被疑者に限るものであるから、これを被告人たる右鈴木に適用することは明らかに違法である。
(E) なお検察官は前記接見拒否の理由として
(a) 右申立人等は何人の依頼を受けて弁護人になろうとしているのか明らでないと主張するが、弁護士は何人より依頼されたかを明らにする必要はなく、明らかにすることは弁護活動に制限を加えるものである。にもかかわらず右申立人等は被告人鈴木自ら並びに同人の妻より依頼を受けたことを明白にしたものである。
(b) 右申立人等は依頼されたことの資料を提出しないと主張するが、依頼された事実については書面によることなどを要せず弁護士が口頭でのべれば足りると解すべく、特に被告人より依頼を受けた場合にはそうである。のみならず、既に弁護人の選任届をした弁護士鈴木元子が同道し、申立人等は被告人及びその家族から弁護人の依頼を受けて来たものであることを保証していたのであるから、疎明は十分である。
(c) 公訴提起後であるから、裁判所に弁護人選任届が提出されている筈であると主張するが、依頼を受け被告人と接見し、その後に選任を受けるかどうかを決定しようとする者に選任届がある筈がない。
(二)(イ) 申立人山本幸子の申立の趣旨
頭書決察官富田康次、同山岡文雄は、頭書被告事件につき、頭書被告人鈴木充と右申立人とを自由に接見交通せしめねばならないとの決定を求める。
(ロ) 申立人山本幸子の申立の理由の要旨。
(A) 右申立人は右被告人鈴木充につき弁護人を選任し得る者の依頼を受け弁護人になろうとする弁護士であるが、昭和四一年五月一七日右被告事件に関し勾留の場所たる代用監獄千葉中央警察署留置場に赴き右鈴木に接見しようとしたところ、右検察官富田康次、同山岡文雄はこれを拒否した。
(B) ((一)(ロ)(B)と同じ)
(C) ((一)(ロ)(C)と同じ)
(D) 尤も右検察官等は接見拒否の理由として右申立人には右被告人鈴木の両親又は配偶者の依頼が必要で、被告人鈴木のみの依頼では依頼を受けたとは認めないというものの如くである。然し右申立人は右被告人鈴木自身より依頼を受けたものであつて、これ以上何人の依頼も必要でないことは明白であるから、右拒否は不法である。
第二 検察官の意見
千葉地方検察庁検察官山岡文雄作成の意見書(二通)の要旨。
(イ) 本件申立を棄却する旨の決定をもとめる。
(ロ) 申立人等の第一(ロ)(A)(B)、(二)(ロ)(A)(B)の主張(接見拒否、弁護人と被告人の自由秘密交通権)についてはこれを争わない。
(ハ) 申立人等の第一(一)(ロ)(C)、(二)(ロ)(C)の主張(接見拒否に理由なしとの主張)について。
右被告人鈴木と申立人等の接見拒否には正当な理由がある。被告人鈴木は頭書傷害事実につき昭和四一年四月一〇日勾留され、同日右事実につき弁護人又は弁護人を選任し得る者の依頼を受けて弁護人となろうとする弁護士以外の者との接見禁止決定を受けその後右事実につき公訴提起をなしたが、依然として前記趣旨の接見禁止中のものである。
(a) 弁護人を選任できる者の依頼により弁護人となろうとする弁護士は、何人により依頼されたかを明らかにしなければならないのに、申立人小島、同山口、同川越は当初何人に依頼されたかを明らかにしなかつた。
(b) 又申立人等は依頼を受けたことについて何等の資料を提供せず、その後申立人小島、同山口、同川越は依頼は被告人鈴木の妻より受けたと称したが右妻に問い合わせたところ右妻より右依頼の事実は否定された。申立人山本は被告人より依頼されたと称したが、この事実は右被告人鈴木によつて否定された。
(c) 公訴提起後にあつては、弁護人選任届が裁判所に提出されてある筈であるのにこれが提出された事実もない。
第三 当裁判所の判断
(一) 頭書被告人鈴木充は昭和四一年四月七日傷害事実について逮捕状により逮捕され、同月一〇日右同一事実につき勾留されると共に、刑事訴訟法三九条一項に規定する者以外との接見等を禁止され、次いで同月一九日に勾留期間を同月二九日まで延長され、同月二九日前記同一事実について千葉地方検察庁検察官より千葉地方裁判所に公訴を提起され現に代用監獄たる千葉中央警察署留置場に勾留されているものであること、及び右事実以外については逮捕、勾留は固より起訴されていないものであることが、同被告人に対する起訴状並びに勾留に関する処分の関係書類により明らかである。
(二) 申立人等の第一(一)(ロ)(A)、(二)(ロ)(A)の主張(接見拒否がなされたとの主張)は検察官もこれを争わず、一件記録に徴してもこれを認めることができる。
(三) 申立人等の第一(一)(ロ)(B)、(二)(ロ)(B)の主張(弁護人の自由秘密交通権の主張)は刑事訴訟法三九条一項二項、八一条により明らかに正当である。
(四) 申立人小島、同山口、同川越等の第一(一)(ロ)(D)の主張(接見拒否の根拠を刑事訴訟法三九条三項に求めるのは違法であるとの主張)について考察するに、本件記録を通じて検討するも、前記検察官又は司法警察員が申立人等と被告人鈴木充との接見拒否の根拠を同法三九条三項においた主張をしていたことの発見できないことは勿論、検察官等が同条項の解釈を誤り或は同条項を濫用して、あたかも接見禁止中の被疑者に対する指定処分に基く措置の如く同被告人を取扱つた結果、本件接見拒否に及んだものとも認められない。
(五) 申立人等全員に対し検察官等がとつた接見拒否の性質について。
元来法は司法的色彩の強い行政処分である刑事訴訟法三九条三項所定の処分(被疑者に対する接見の指定処分)その他所定の処分については関係人にとつて利害関係の大きいところから、これに対する不服を準抗告の対象として取り上げているが、同法三九条一項八一条所定の被告人と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見交通権に関する規制については関係人の良識にゆだねられ、これに関する調整につき格別の司法的措置をとつていないことは、同法四三〇条三九条を対照考察すればまことに明白である。
(六) 結 論
果して然らば、被告人鈴木充との接見交通権の行使に関し検察官等のとつた取扱につき不服があるとしてなされた申立人等の本件準抗告は、前記(四)(五)いずれの点においても理由がないから、刑事訴訟法四三二条四二六条一項に則に棄却することとして主文のとおり決定する。(石井謹吾 小室孝夫 浅田登美子)