最高裁判所第三小法廷 昭和42年(し)73号 決定 1967年12月13日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、別紙特別抗告の申立書記載のとおりである。
所論は、要するに、(一)原裁判所が勾留期間延長の裁判をなすためには、大阪地方裁判所裁判官の勾留期間延長請求却下の裁判を取り消す旨の有効な裁判の存在を前提とするところ、本件においては、かような裁判を前提としていないから、原裁判所の勾留期間延長の裁判は無効である。また、(二)原裁判所が勾留期間延長の裁判をなすには、それが勾留期間(延長期間を含む)満了前になされることが必要であるところ、本件においては、勾留期限は昭和四二年一二月九日であって、原裁判の勾留期間延長の裁判は、早くとも、それ以後である同月一〇日午前〇時三分頃になされたのであるから、かかる裁判は無効である。従って、かような無効な裁判による勾留は違法であり、ひいては憲法三一条、三三条、三四条に違反する、というのである。
そこで、一件記録及び当裁判所の事実取調の結果によれば、本件の経過は次のとおりであることが認められる。すなわち、原裁判所の裁判長原田修は昭和四二年一二月九日午後一〇時三〇分頃合議部を構成し、まもなく合議に入り、同日午後一一時三〇分ないし四〇分に合議が成立したため、裁判長は検察官に対し、口頭で「前の裁判を取り消して期間を延長する。」旨告げ、同席していた陪席裁判官高井清次が「延長期限は昭和四二年一二月一五日までである。」旨補足したが右告知は同月九日午後一一時四〇分よりは遅かったが同日午後一二時前であった。一方裁判長は小山博之、山田至両書記官を呼び、勾留期間延長の旨を勾留状裏面に記載するように命じ、両書記官は手わけして四通の勾留状裏面に所定の記載をした上裁判長の記名押印を得て、さらに交付年月日及び書記官の記名押印をなし、山田書記官がこれを一括して検察官に手渡したが、それは同月九日午後一二時の二〇秒か一五秒前であった。以上の事実が認められる。
右の経過によれば、原裁判所が勾留期間延長の裁判をなすにあたり、その前提である勾留延長却下の裁判を取消す決定を告知するにつき、謄本送達の方法によらずして単に口頭で告知したにとどまることは、裁判告知の方式に違背し違法であることを免れない。しかし、右取消決定の告知は実質上なされているのであるし、原裁判所の勾留期間延長の決定は、当然にこれと矛盾するさきの勾留延長却下の裁判を取り消す趣旨をおのずから示しているものでもあって、緊急を要した本件の具体的事情のもとにおいては、右の方式違背は、ただちに勾留期間延長の決定を無効ならしめるものとはいえない。また、右経過によれば、原裁判所は、本件の勾留期限である、一二月九日午後一二時より前に勾留期間延長の裁判をしているのであるから、この点については原裁判所の手続には所論の瑕疵は存しない。
従って、右勾留期間延長の決定の無効を前提とする所論違憲の主張は前提を欠き、刑訴法四三三条の抗告の理由に当らない。
よって、刑訴法四三四条、四二六条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美)