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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)822号 判決 1968年11月19日

上告人

稲葉重郎

代理人

高橋通夫

被上告人

松葉清栄門

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋通夫の上告理由第一、第三について。

所論の点に関する原判決の事実認定は、その挙示する証拠に照らし、正当として是認でき、代物弁済の成立、その効力に関する原判決の判断は、その挙示する事実関係のもとにおいては、正当として是認できる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立ち、原審の認定にそわない事実を主張して、適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定、それに基づく正当な判断を非難するに帰し、採ることができない。

同第二について。

債務者がその負担した給付に代えて不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済する場合の債務消滅の効力は、原前として、単に所有権移転の意思表示をなすのみでは足らず、所有権移転登記手続の完了によつて生ずるものと解すべきであることは当裁判所の判例とするところである(昭和三九年(オ)第六六五号同四〇年四月三〇日第二小法廷判決、集一九巻三号七六八頁参照)。

しかし、このことは、当事者間において、債権者が右不動産の所有権移転登記手続に必要な一切の書類を債務者から受領したときは右移転登記手続の実行をまたないでただちに代物弁済による債務消滅の効力を生ぜしめる旨の特約をすることを妨げるものではなく、かかる特約が存する場合には、債権者が債務者から右書類を受領したときに、ただちに代物弁済による債権消滅の効力が生ずるものと解すべきである。

そこで、右と同旨の見解に立つて、本件債務消滅の効果が生じたものとする原判断は、その確定した特約の存在等の事実関係のもとでは、正当として支持することができる。論旨引用の判例は、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立ち、原審の認定にそわない事実を主張し、正当な原判決を非難するもので、採ることができない。

よつて、民法法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 松本正雄 飯村義美)

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