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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1040号 判決 1970年1月27日

上告人(原告・控訴人) 太洋炉工株式会社

右訴訟代理人弁護士 姫野高雄

被上告人(被告・被控訴人) 武井金四郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人姫野高雄の上告理由第一、二点について。

所論は、本件手形につき被上告人の手形上の責任を否定した原判決は、憲法一二条に違背するというが、その実質は、たんに原判決の法令違背を主張するものにすぎない。しかるところ、原判決の確定した事実関係によれば、本件手形に振出人として表示された訴外日基コンクリート工業株式会社は、東京都港区新橋五丁目二九番七号を本店所在地とする設立登記をして設立されたものであるところ、その後昭和四一年四月、本店を同所から本件手形面に振出人の肩書地として表示された東京都千代田区神田錦町一丁目一五番地に移転したのに、本店移転の登記をしなかった、というのであるが、会社は、本店所在地において設立の登記をすることによって成立し、法律上会社として存在することになり、その後において会社本店が他に移転した場合にその旨の登記を怠ったからといって直ちにその存在を失うものではなく、手形振出人である会社の肩書地が登記簿上の本店所在地と異なっている場合であっても、会社が実在する以上、振出署名をした会社の代表者が個人として手形責任を負うものでないことは、当裁判所の判例(昭和三五年(オ)第二二九号、同三六年一月二四日第三小法廷判決、民集一五巻一号七六頁)とするところである。

してみれば、本件手形は実在する訴外会社によって振り出されたもので、被上告人が個人として本件手形の支払義務を負うものではない、とした原審の判断は正当であり、原判決になんら所論の違法はない。論旨は、すべて独自の見解に立って原審の判断を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

上告代理人姫野高雄の上告理由<省略>

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