最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)210号 判決 1970年5月19日
上告人
籔トモ子
代理人
辻中栄太郎
被上告人
服部行徳
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人辻中栄太郎の上告理由について。
本件において原審が民法六二一条を適用し、借家法一条ノ二の適用について考慮しなかつたのは相当であり、原判決になんら所論の違法はない。論旨は、独自の見解であつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(関根小郷 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)
上告代理人の上告理由
原判決は審理不尽の違法がある。
即ち原判決は「ところで民法第六二一条による賃貸人のなす解約申入れの期間は借家法第三条によるべきものと解するのが相当であるから……」として賃借人の破産宣告を受けたことを理由に賃貸人である控訴人の賃貸借契約の解約申入れを是認せられたのである。
然しながら近時賃借権が頗る財産的価値を有しつつある時、又借家法第一条の二の立法趣旨から考える時、単に賃借人が破産宣告を受けたという事実だけでは賃貸借契約の解約の申入を許容すべきものではなく、その居住権の重大さに思いを致しこの場合も解約申入れの正当性を勘案審理すべきものと考えるのであります。
殊に原判決は解約申入期間を民法第六一七条によらず借家法第三条によるものと解されているのでありますが、かく借家法を適用せられるならば更に進んで借家法第一条の二の適用を考慮審理せらるべきであると思料するのであります。
しかるに原審は右点に関する審理を尽さず前叙の如き判断をなされたのは、将に違法の判決で破毀を免れざるものと思料致します。