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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)426号 判決 1970年11月24日

上告人

甲野花子後見人

乙谷一郎

代理人

渡辺弥三次

被上告人

甲野太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺弥三次の上告理由第一点について。

甲野花子のかかつている精神病はその性質上強度の精神病というべく、一時よりかなり軽快しているとはいえ、果して完全に回復するかどうか、また回復するとしてもその時期はいつになるかは予測し難いばかりか、かりに近い将来一応退院できるとしても、通常の社会人として復帰し、一家の主婦としての任務にたえられる程度にまで回復できる見込みは極めて乏しいものと認めざるをえないから、花子は現在なお民法七七〇条一項四号にいわゆる強度の精神病にかかり、回復の見込みがないものにあるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点について。

民法七七〇条一項四号と同条二項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべぎであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二八年(オ)第一三八九号、同三三年七月二五日第二小法廷判決、民集一二巻一二号一八二三頁)。ところで、花子は、婚姻当初から性格が変つていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人ともつきあわず、被上告人の店の従業員とも打ちとけず、店の仕事に無関心で全く協力しなかつたのであり、そして、昭和三二年一二月二一日頃から上告人である実家の許に別居し、そこから入院したが、花子の実家は、被上告人が支出をしなければ花子の療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、被上告人は、花子のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、花子の過去の療養費については、昭和四〇年四月五日上告人との間で、花子が発病した昭和三三年四月六日以降の入院料、治療費および雑費として金三〇万円を上告人に分割して支払う旨の示談をし、即日一五万円を支払い、残額をも昭和四一年一月末日までの間に約定どおり全額支払い、上告人においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に係属してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、被上告人と花子の間の長女康子は被上告人が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。そして、これら諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、右諸般の事情その他原審の認定した一切の事情を斟酌考慮しても、前示花子の病状にかかわらず、被上告人と花子の婚姻の継続を相当と認める場合にはあたらないものというべきであるから、被上告人の民法七七〇条一項四号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文とおり判決する、(下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

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