最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)548号 判決 1970年10月13日
上告人
徳重棟雄
被上告人
山崎清三郎
外二名
代理人
江頭鉄太郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について。
債務を履行するにあたり、その性質上、債権者の協力がなければその給付を完了することができない場合においては債務者は、みずからなしうる履行の準備をととのえて債権者の協力を待つべきものであり、債務者が債務の本旨に従つた履行の準備をなし債権者の協力を求めたにかかわらず債権者においてこれを拒んだため給付を完了することができないときは、債務者において債務不履行の責任を負うものでないことは、民法四九二条の明定するところである。本件において、原審の確定したところによれば、賃貸人の一人である被上告人山崎清三郎は、上告人から被上告人ら所有の原判示(ハ)の建物が上告人の賃借している本件家屋に倒れかかつて危険だから除去してもらいたいと申し込まれたので、昭和三四年に大工に依頼して調査したところ、被上告人ら所有の(ハ)の建物の柱が腐蝕しており、これを取り代えて補強すれば、(ハ)の建物の本件家屋に対する影響もなくなることが判明したが、その工事にあたつては、その時(ハ)のの建物と本件家屋との関連状況からして本件家屋内にある品物を一時搬出しなければ作業ができなかつたので、その旨を上告人に告げて工事への協力を求めたが、上告人は(ハ)の建物の解体を主隈してこれに応じなかつたので、(ハ)の建物の補修ができなかつたというのであり、右事実関係に徴すれば、被上告人らは、賃貸人として負担する義務の履行につき準備をととのえて債権者である上告人の協力を求めたものであるということができる。してみれば、被上告人らはその債務の履行の提供をしたことによつて以後債務不履行の責を免れたものというべきであり、結局これと同旨と解される原審の判断は正当であるといわなければならない。また、原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らは信義則に照らして賃貸人として本件建物自体の修繕義務をも負うものではないとする原審の判断もまた正当として是認でき、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)