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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)577号 判決 1970年10月27日

上告人

小林公司

代理人

酒井武義

被上告人

更生会社三善工業株式会社

管財人

松田良治

被上告人

酒井泰平

被上告人

更生会社三善工業株式会社

管財人

柴田利雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人酒井武義の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の挙示する証拠関係により是認するに足り、その判断の過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二点について。

所論判示部分がその引用にかかる第一審判決中、訴外更生会社が本件建物を訴外江端怜女から買い受けてその所有権を取得した旨の認定部分を指すものであることは、原判決の判文自体によつて明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について。

記録に徴すると、本件訴訟は、訴訟更生会社の管財人に選任された被上告人松田良治、同酒井泰平の両名が右会社の管財人として共同原告となり、弁護士福村武雄に第一審手続の訴訟代理を委任し、同弁護士が訴訟代理人となつてその訴訟手続を追行し、昭和四三年一月二四日終結した口頭弁論に基づいて第一審判決が言い渡されたものであるが、右第一審判決に対し上告人から控訴申立がなされたのに応じて、被上告人三名から、原裁判所に対し、本件訴訟が第一審に係属中の昭和四二年一一月四日金沢地方裁判所の決定により、新たに被上告人柴田利雄が訴外更生会社の管財人に追加選任されたため、被上告人松田、同酒井は訴訟追行権を失い、訴訟手続の中断事由を生じたから、あらためて被上告人三名において本件訴訟手続を受け継ぐ旨の訴訟手続受継の申立および第一審判決の敗訴部分に対する附帯控訴の申立をしたので、原裁判所は、右受継申立に基づいて被上告人三名を被控訴人兼附帯控訴人として訴訟手続を進行させ、原判決を言い渡したことが明らかである。

ところで、更生会社の管財人が数人あるときは、その数人は、原則として、共同して職務を行なうことを要し、数人の管財人を当事者とする訴訟がいわゆる固有必要的共同訴訟に属することは所論のとおりである。したがつて、本件のように数人の管財人によつて適法に追行されて来た訴訟の係属中に、さらに新たな管財人が追加選任されたときは、その選任の時以後は、従来の管財人だけでは訴訟を追行する権限を失い、従来の管財人と新たに追加選任された管財人とが共同してのみ訴訟を追行する権限を有することになるが、かような場合においても、当事者適格を欠く者の追行する訴訟として直ちに右訴が不適法になるものではなく、新管財人を含む全管財人が一体として従来の管財人により追行されて来た訴訟上の地位を承継するとともに、民訴法二一二条一項の類推適用により、その訴訟手続が中断し、全管財人においてその訴訟手続を受け継ぐことを要することになるものと解するのが相当である。

しかるところ、本訴の第一審においては、被上告人松田、同酒井の訴訟代理人として福村弁護士が選任されていたことは前記のとおりであるから、被上告人柴田が管財人に追加選任され、訴訟に承継を生じたことによつては、本件訴訟手続は中断せず、第一審判決が被上告人らの代理人に送達された時にはじめて中断したものというべきであり、承継前の当事者である被上告人松田、同酒井のみを原告と表示した第一審判決にはなんら違法はなかつたものといわなければならない。のみならず、右第一審判決に対する上告人の控訴に伴つて被上告人三名が訴訟手続を受継したことにより、前記中断は解消したことが明らかであるから、その訴訟手続に基づいてなされた原判決にもなんら違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

上告代理人の上告理由

上告理由第三点 原判決は民事訴訟法第三百八十六条に違背する違法がある。

原判決は判決理由一において「更生会社の管財人は当初は松田良治、酒井泰平の両名であつたが、昭和四二年一一月四日金沢地方裁判所の決定により柴田利雄が新たに管財人として追加選任されたことは記録に編綴の三善工業株式会社の登記簿の抄本によつて明らかである」と説示しながら、第一審(昭和四三年一月二四日口頭弁論終結)が原告たる管財人松田良治、同酒井泰平の両名のみでは当事者適格を欠くことになる点を看過して右両名を原告とする本案判決をなした点について何ら言及していない。

本件訴訟は当事者の一方が更生会社の管財人でありその管財人が三名存在する場合であるから講学上いわゆる固有必要的共同訴訟に該当するものであるが、固有必要的共同訴訟とは数人が共同しなければ当事者適格を有しない共同訴訟形態であることは異論のないところである。そして通説によれば、当事者適格の存在は訴訟要件(本案判決要件)とされており、それはまたいわゆる裁判所の職権調査事項でもあるから裁判所は常にその存否について十分に注意を払いそれを欠くときは本案判決をなし得ないのであるが、仮りにその不存在を看過して本案判決をなした場合には仮令確定してもその判決は無効であり、また適法な上訴がなされれば上級審はその判決を取消さなければならないのである。

ところで一般に第一審判決の変更は不服申立の限度でなし得るのであるが、職権調査事項はこの制限に服さないのであるから、原裁判所は控訴人の不服申立の範囲如何にかかわらず当事者適格を看過して本案判決をなした第一審判決を不当な判決として民事訴訟法第三百八十六条により当然取消すべきであると思料せられるところ、原判決はこの点の判断を遺脱して右法条に違背し、しかもこの違背は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄さるべきである。

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