最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)244号 判決 1971年7月20日
上告人
株式会社エーワンベーカリー
代理人
中元兼一
中村俊輔
中村宏
若林正伸
被上告人
趙金玉
代理人
山崎武徳
家近正直
出島侑章
鷹取重信
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中元兼一、同中村宏、同若林正伸の上告理由について。
対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額を通常の損害として、民法七一五条の規定により手形偽造者の使用者に対し、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、右手形所持人がその前者に対し手形法上遡求権を有することはなんら右損害発生の障害となるものではないことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和四四年(オ)第四〇五号同四五年二月二六日第一小法廷判決民集二四巻二号一〇九頁)。そして、右損害賠償請求権を行使するか右遡求権を行使するかは右手形所持人の自由な選択にまかせられているのであるから、かりに同人が右遡求権を行使しなかつたため、これが時効により消滅したとしても、手形所持人には何らの過失も認めることはできないのである。したがつて、被上告人が本件各手形の裏書人である訴外宇都宮繁市に対し遡求権を有していたとしても、これをもつて被上告人に所論の損害が発生しなかつたとすることはできず、また右遡求権が所論の理由で時効により消滅したとしても、被上告人の本訴損害賠償請求権の成否に何らの影響をも与えるものではなく、過失相殺を論ずる余地も存しない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 下村三郎 関根小郷 天野武一)