最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)760号 判決 1971年12月21日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大塚喜一の上告理由第一点について。
原審は、被拘束者が乙山春来方で監護・養育されている現状よりは被上告人によつて監護・養育される方が明白に幸福であると判断するについては、被上告人が被拘束者の実母であることのみに着目したものではなく、被上告人は勤務する身ではあつても被拘束者の監護・養育能力に欠けるところがないこと、一方、上告人は被拘束者を上告人から遠く離れている鹿児島市居住の従兄である前記乙山夫婦に委託して養育させていること等の事実を確定し、その対比において、前記のように判断しているのであり、この判断は、相当として首肯することができる。原審は、一才程度の幼児にとつて、両親の夫婦関係が破綻に瀕している場合、原則としては実母によつて監護・養育されるのが相当であるとの考慮を基礎にしていることがうかがわれるが、このこと自体を不合理として非難するのは、あたらないというべきである。したがつて、原審が、被拘束者の拘束の違法性が顕著であるとして、被上告人の請求を認容したのは、正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点について。
被上告人が被拘束者の拘束後約五か月を経て本件請求に及んだことは所論のとおりであるが、原審の確定した事実によれば、被上告人は、その間、上告人に対し被拘束者を返すよう要求し、調停をも申し立てて不調に終つているというのであり、五か月程度の経過によつて新たな安定した状態を形成するに至つたものとはいえず、救済を求める必要性ないし緊急性を欠くものとは認められない。そして、被上告人が、他の手続によつて、上告人および被拘束者との関係についての基本的問題を解決すべきであることはもとよりであるが、被拘束者の救済については、最も適切かつ迅速な人身保護法による手続を選んだことに、なんら違法・不当な点はない(最高裁判所昭和四四年(オ)第六九八号同年九月三〇日第三小法廷判決、裁判集民事九六号六七九頁参照)。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、人身保護法二三条、人身保護規則四二条、四六条、民訴法九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一)