最高裁判所第三小法廷 昭和46年(行ツ)26号 判決 1974年6月28日
愛媛県宇和島市錦町三番二二号宇和島自動車会館内
上告人
第一タクシー株式会社
右代表者代表清算人
村重享
松山市本町一丁目三番四号
被上告人
松山税務署長
中村治郎
右当事者間の高松高等裁判所昭和四一年(行コ)第七号法人税額決定等取消請求事件について、同裁判所が昭和四五年一一月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人木村秀太郎の上告理由について。
所論の点に関する原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定判断は、挙示の証拠関係に照らし、いずれも正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 採判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)
(昭和四六年(行ツ)第二六号 上告人 第一タクシー株式会社
上告代理人木村秀太郎の上告理由
第一点 原判決には商法第四一六条によつて準用する同第一〇三条の法意に背いて、会社合併の事実を認定した違法があり、破棄は免れざるものと思量する。思うに合併とは、解散する会社の社員を存続する会社の社員たらしめることを不可欠の要素の一つとする会社間の契約である。然るに原判決の認定によれば、道後タクシー株式会社を合併したはずの上告会社は、右合併に際して道後タクシー株式会社の社員を自己の会社の社員とし全然収容しておらず、従つてこれを合併と認めることは不可能である。思うに被上告人請求の本件課税は法人税法施行規則第二三条の一〇(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)。は会社の合併を前提条件と為すものである。果して然りとすれば、合併を前提とする被上告人の本件請求は明かに失当であると言わざるを得ない。
即ち原審が引用する第一審判決の認定事実によれば、上告人は昭和三二年二月三日頃道後タクシー株式会社の全株式三八、〇〇〇株を一株当り二五〇円、合計九七〇万円で売買する旨の契約を締結し、同日及び同月二七日頃右株式譲受の対価として九七〇万円の金員が上告人の出捐において、株式の取りまとめの衝に当つていた道後タクシー株式会社の代表取締役白石五郎に対して交付され、同人から各株主に分配されたうえ、右代金の完済と引換えに道後タクシー株式会社の全株主の白紙委任状付株式引受証(同会社は株券末発行)及び全役員の辞任届が上告会社に交付され、かくして昭和三二年五月一三日上告人は、道後タクシー株式会社を吸収合併したと為すものであるが、右合併株主総会当日に於ける道後タクシー株式会社の全株式三万八千株の株主は上告人だけであつて、被合併会社たる道後タクシー株式会社々員の持株が皆無であつた事実は原判決の認定の通りである。果して然りとすれば、合併会社たる上告人は、被合併会社たる道後タクシー株式会社の社員を、合併した会社の社員として全然収容していないことを極めて明白であり、しかも被合併会社の社員の収容は合併上必須の要件であるから、比の要件を欠ぐ本件合併は法律上合併とは認めがたく、従つて原判決は商法第四一六条によつて準用する同第一〇三条の法意に違背するものであつて、破棄は免れえないものと信ずる。
(注) 法人税法施行規則第二三条の一〇(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令による改正前のもの
「法人が合併した場合において、合併前に合併法人が取得した被合併法人の株式があり、その取得により被合併法人の清算所得金額が不当に減少する結果となると認められるときは、当該株式取得に要した金額は、合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対し合併により交付する金銭とみなし、当該株式については、合併法人の株式の割当又は引当があつたものとみなし被合併法人の清算所得金額を計算する。
第二点 原判決には合併の効果に関する商法第一〇三条の強行規定に反する事実を黙止して合併の事実を認定した違法があると同時に、審理不尽並に理由不備の欠点があり、当然破棄されるものと信ずる。即ち同法の趣旨によれば、被合併会社の財産は当然合併会社に包括承継せられ、たとい当事者の特約を以つてしても其の財産の一部を承継から除外し得ないこと論をまたない。従つて包括承継なき合併なるものは有り得ないはずである。然るに原判決は、以下述べる包括承継に反する顕著な事実に対して何等の理由又は説明をも加えることなく、審理不尽のまゝ合併の事実を認定しているので、先づ謂うところの反包括承継的で特に顕著な事実を明かにしたい。即ち道後タクシー株式会社の全株式を上告人に売つてしまい、同時に同会社の代表取締役を辞任したと証言している上田五郎、昭和四四年一〇月二一日の期日に証人として出廷し、
(1) 昭和三二年四月二〇日付けで、道後タクシー株式会社代表取締役白石五郎という振出人名義を用い株式会社伊予銀行道後支店宛に金二、二九〇円の小切手を振出し、同額の現金を引出した事実
(2) 更に昭和三三年六月三〇日付けで、前同様道後タクシー株式会社代表取締役白石五郎という振出人名義を用い、前同様株式会社伊予銀行道後支店宛に金四〇〇円の小切手を振出し、同銀行支店が之を右小切手の裏書人射場燃料店に支払つている事実
(3) 最後は昭和三四年二月一三日付で、前同様道後タクシー株式会社取締役白石五郎という振出人名義を用い、前同様株式会社伊予銀行道後支店宛に金一二円の小切手を振出し、同支店は之を裏書人第一タクシー株式会社(上告人)に支払つている事実を自供している。
以上の三事実の小切手振出合計金額は後に引用する甲第六号証の一(昭和三二年二月二八日現在の道後タクシー株式会社貸借対照表)借方当座預金の金額と一致していること言うまでもない。
次に昭和三九年二月六日証人として喚問された原正昭は、次のような証言をしている。
一、私は株式会社伊予銀行道後支店の支店長であります。
二、昭和三二年三月ころ株式会社伊予銀行が株式会社日本長期信用銀行の代行者として道後タクシー株式会社に金四三五万円を貸付けております。
三、右貸付金は昭和三二年三月二日、振出日同年同月同日、振出人道後映画劇場株式会社代表取締役白石五郎、支払人株式会社伊予銀行道後支店の小切手で支払われております。
四、右の事実は株式会社伊予銀行道後備付けの商業帳簿に記載されております。
尚、株式会社伊予銀行道後支店長だつた太平芳隆の作成したメモには、小切手の振出日が昭和三二年三月二〇日となつており、又昭和三九年二月六日の上田五郎に対する証人訊問調書でも昭和三二年三月二〇日付の小切手で支払つたことになつている(調書五七枚目)
そこで第一審が成立の真正を保証する甲第六号証の一に基いて、昭和三二年二月二八日現在に於ける道後タクシー株式会社の貸借対照表を摘記すると次の如くである。
(借方)資産
(1) 現金 一一、六七一円
(2) 当座預金 二、七〇二円
(3) 車輛運搬具 三、六〇九、一一六円
(4) 器具及備品 六九、九一九円
(5) 貸付金 四、四五〇、〇〇〇円
(6) 工具 三、二〇〇円
(7) 未収金 二五四、九九〇円
(8) 電話加入権 一五、三六四円
(9) 部品有高 四、六〇〇円
(10) 燃料有高 六、一八五円
(11) 仮払金 一二四、五五五円
(12) 未経過保険料 四五、七〇〇円
(13) 未経過利子 五〇、五三二円
(14) 前払金 六、五〇〇円
合計 八、六五三、〇三四円
(貸方)負債
(一) 借入金 四、九二〇、〇〇〇円
(二) 支払手形 一、三二〇、七六八円
(三) 未払金 一八四、六八七円
(四) 預り金 一二、五二八円
合計 六、四三七、九八三円
右資産負債がどうなつたかという点は、上告人に取つては関心事ではあるが、知るところは皆無に等しい。
たゞ右資産負債中の(3)車輛運搬具、(8)電話加入権、合計金額三、六二四、四八〇円は上告人が道後タクシーから譲渡を受けていること、当初からの主張どおりである。
以上述べるところにより、財産の包括承継が皆無である事実から見て、包括承継の事実なきところに合併の事実なしということが真である限り、本件が合併の範ちゆうに這らないのは当然であると言わざるを得ない。果してそうだとすれば、合併を前提とする本訴の課税は、苛斂誅求の代表的なケースと言えると愚考する。
而して包括承継違反の顕著な事実を知つてこれを黙止し、而も一言の理由をも述べないのは審理不尽と言わざるを得ない。従つて此の最後の一点だけでも充分破棄に値するものと愚考する。
第三点 原判決には、代理人に非ざる者を代理人と認定し且つ経験法則に背いた主要事実を認定した違法があり、当然破棄せらるべきものと思量する。即ち原審の引用する第一審の理由によれば、当時保険会社の外交員をしていた吉良権太郎なる者に、買主が原告であることを口止めして道後タクシー株式会社の買収方を依頼したところ、同人は右タクシー株式会社の代表取締役である白石五郎(後に上田と改姓)に対し、久万の山持である某が経営をしたがつているので、右タクシー会社を譲つて欲しい旨を申入れた。そこで右申入れを受けた白石は、吉良に対し売却方法は全株式の譲渡とし最底値段一株二五〇円ならば株式を手放してもよい旨を申し出で、昭和三二年二月三日頃道後タクシーの全株式三八、〇〇〇株を吉良の依頼人に対して一株二五〇円、合計九七〇万円で売却する旨の契約が締結され同日と同月二七日頃株式譲渡の対価として吉良から白石に九七〇万円が支払われ、買手が誰れであるかを知らぬまま右売買は完了した。処が右白石は、売買完結後間もなく上告人の関係者が道後タクシー株式会社の営業所に派遣されてきて、始めて買主が原告であることを察知し、同時に吉良からも打明けられたが、売買終了後のことなので、致しかたがなかつた。処が、株式の売買が事実なれば、一株二五〇円三八、〇〇〇株であるから、その受渡代金は九五〇万円でなければならないにもかかわらず、白石は吉良から九七〇万円を受取つているので、そこに二〇万円の誤差が出来るところから、第一審判決は、右交付金額の差違は、吉良または白石の不明朗な所為に帰することは格別、本件が株式譲渡であるとする認定を左右するものではないと弁明しているのであるが、此の点を上告人から追求された原審は、その理由に於て、原判決の挙示した証拠によると、売主の代理人である白石は買主の代理人である吉良より九七〇万円を受領しながら、売主ら(自己を含む)に対しては金九五〇万円を交付し、差額二〇万円は謝礼金として吉良の承諾のもとに自らにおいて取得したものと認められると言つて彼上告人の請求を認めた。然し原審は、第一に民法の代理に関する規定を誤解したものと認められる。即ち売買取引の相手である白石五郎は、陰の買主については「久万の山持ち某」であるということ以外は何にも知らず、これを知つたときは「売買代金受領後」即ち売買取引終了後である。勿論上告人は吉良を代理人に選任した事実は否認するものであるが、一歩を譲つてそうした事実があつたとしても、取引の相手方たる白石は上告人との代理関係なるものを全然知らず、彼は本人を久万の山持ちだと信じており、本人が上告人だということを知つたときは、意思表示乃至法律行為が終了した後のことであるから、それまでに吉良と上告人との間に代理関係が成立する道理は有り得ないと思われる。
仮に代理関係が推認され得るものと仮定しても、売主に謝礼するということは、その自体が異例であるのみならず、菓子折程度の物なればいざ知らず、現在の貨幣価値からすれば何百万円かに相当する金銭を本人に無断で売主以外の何者でもない白石に謝礼として本人に無断で贈与するというが如きは異例中の異例であると言わざるを得ない。加之、道後タクシー株式会社の顧問税理士石田敏次が昭和三八年一二月二日本件第五回の期日に於て、直接その点については質問もしないのに、「大部分の株を上田が持つている」と証言したところによれば、白石五郎は右株式売買当時は道後タクシー株式会社の株式の大部分の株を持つていた事実が伺われるから売主の代理人である吉良が株式売買の謝礼として二〇万円を贈与するということは、実質的には白石個人に与えというに等しく、株の売買価格を自己の一存によつて自由に値上げし得る立場にある白石としては保険の外交員に過ぎない吉良の手から謝礼金なぞ受取る理由は少しも考えられないところであつて若し欲しいのなれば値上の方法を選ぶのが安易であるばかりでなく、他人に頭を下げる必要もない。そういう立場の白石に二〇万円の謝礼金を支払つたとなすことは経験法則に違反するもので破棄は数の免れざるところである。又原判決は原判決の挙示した証拠によればといつているが、具体的には証拠を挙示していないのみならず、贈与したという日時、場所、金二〇万円の内訳等について何等触れるところが無いのは寔に不思議なことである。
以上