最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)136号 判決 1973年4月10日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人石田寅雄、同藤井誠一の上告理由第一点、第三点および第四点について。
訴外株式会社加瀬商店(以下、訴外会社という。)に対する債権者らから信託を受けた原審脱退控訴人東京繊維株式会社(以下、脱退控訴人という。)が、訴外会社から自己の名において有効に本件預金債権の譲渡を受け、また、上告人に対する本件損害賠償債権を含む一切の債権を被上告人に譲渡したものである旨の原判決の認定・判断は、挙示の証拠に照らして肯認することができ、なお、所論の事項のうち、本件預金債権に譲渡禁止の特約があつたこと、および、右信託が訴訟行為をさせることを主たる目的としてされたものであることは、原審において主張されなかつたところであつて、右認定・判断に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実の認定を非難し、さらに、原審で主張しなかつた事項に基づいて原判決の違法をいうものであつて、採用することができない。
同第二点について。
所論の相殺の抗弁は、質権の実行が有効と認められない場合のための仮定抗弁として主張されたものであることが明らかであり、原判決は、昭和三六年二月一四日質権の実行としての本件預金債権の取立が有効にされた旨を判断したのであるから、右抗弁について判断することを要するものではなく、原判決は所論引用の判例に反するものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第五点について。
原判決の認定によれば、上告人は、本件預金債権が脱退控訴人に譲渡された旨の通知を受けたのち、これに対する質権の実行としてその取立をし訴外会社に対する貸金債権の弁済に充当したのであるが、その際、訴外会社から右譲渡が真意にでたものでない旨を告げられてはいたものの、脱退控訴人にこれを確かめることをしないまま、右貸金債権の担保である本件手形を脱退控訴人に交付しないで訴外会社に返還してしまい、そのため脱退控訴人が訴外会社に対する求償権の満足を得ることを不可能にさせたというのであつて、このような事実関係のもとにおいては、上告人は、脱退控訴人が弁済により債権者に代位しうる地位にある者であることを看過し、債権の担保である手形を交付すべき相手方を誤つたことについて、金融機関として尽くすべき注意義務を怠つたものというべきであり、この点について上告人が過失の責を免れないとした原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝)