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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(あ)493号 判決 1975年1月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人由良久の上告趣意一について。

道路交通法七二条一項後段のいわゆる事故報告義務の規定が憲法三八条一項に違反するものではないことは、当裁判所の判例(昭和三五年(あ)第六三六号同三七年五月二日大法廷判決・刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に徴して明らかである。

ところで、原判決の維持する第一審判決の認定する事実によると、被告人は、普通乗用車を運転中、酒気帯び運転と認められて熊田正美巡査運転の白バイの追跡を受けるや、白バイの進路を妨害しその追抜きを阻止して逃走するため、故意にハンドルを切って自車を白バイの進路上に進出接近させる暴行を加えた結果、自車に白バイを接触転倒させ、同人を死亡するに至らしめながら、そのまま逃走した、というものであって、このように、自動車運転者が逃走の過程で暴行の犯意のもとに車両の交通により人の死傷の結果を発生させた場合であっても、道路交通法七二条一項後段所定の各事項の報告義務を免れないものとした原判決の判断は正当であり、右判断が憲法三八条一項に違反し前示大法廷判例の趣旨にそわないものとは解されないから、論旨は理由がない。

同二(一)について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由にあたらない(なお、原判決の維持する第一審判決の認定する事実関係のもとで被告人に道路交通法七二条一項所定の救護義務違反の罪が成立するとした原判決の判断は、正当である。)。

同二(二)及び三について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

弁護人平田省三の上告趣意第一について。

所論は、違憲(一四条一項違反)をいうが、記録を調べても、捜査官が被告人の自白を強要する趣旨で所論の留置場所に被告人を拘禁したものと認めるべき証跡を発見することができないから、その前提を欠き、上告適法の理由にあたらない。

同第二について。

所論のうち、違憲(三七条一項違反)をいう点は、記録を調べても、所論自白の任意性を疑うべき証跡を発見することができないから、その前提を欠き、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、いずれも上告適法の理由にあたらない。

よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

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