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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(オ)768号 判決 1974年12月17日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤田一良の上告理由について。

商法二六六条の三第一項前段に基づく第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効につき民法七二四条の適用があるかどうかは、商法二六六条の三第一項前段所定の取締役の責任(以下「取締役の責任」という。)の法的性質、民法七二四条が短期消滅時効を設けた趣旨等の観点から検討して決すべきものである。

思うに、

(1) 取締役の責任は、法がその責任を加重するため特に認めたものであつて、不法行為責任たる性質を有するものではないから(最高裁昭和三九年(オ)第一一七五号同四四年一一月二六日大法廷判決・民集二三巻一一号二一五〇頁)、取締役の責任については不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法七二四条は当然に適用されるものではない。

(2) また、民法七二四条が短期消滅時効を設けた趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に、予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるため、加害者は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場におかれるので、被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには、損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護することにあると解されるところ、取締役の責任は、通常、第三者と会社との間の法律関係を基礎として生ずるものであつて、取締役は、不法行為の加害者がおかれる前記のような不安定な立場に立たされるわけではないから、取締役の責任に民法七二四条を適用すべき実質的論拠はなく、したがつて、同条を商法二六六条の三第一項前段に基づく第三者の取締役に対する損害賠償請求権に類推適用する余地もない。

そして、右損害賠償請求権の消滅時効期間については、他に特に定めた規定がないから民法一六七条一項を適用すべきである。これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

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