最高裁判所第三小法廷 昭和50年(行ツ)92号 判決 1975年12月16日
大阪市城東区野江中之町三丁目二一番地
上告人
株式会社 帝国実業社
右代表者代表取締役
池田照夫
右訴訟代理人弁護士
伊藤寿朗
大阪市城東区野江東之町一丁目四八番地
被上告人
城東税務署長
山本淳二
右当事者間の大阪高等裁判所昭和四九年(行コ)第三五号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五〇年六月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、所論違憲の主張は、独自の見解を前提とするものにすぎず、失当である。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)
(昭和五〇年(行ツ)第九二号 上告人 株式会社帝国実業社)
上告人の上告理由
一、日本国憲法は第三〇条第八四条に於て租税法律主義を規定する。国民は法律の定めるところに従い納税の義務を負う。
国の課税権は国の主権の内在的属性それは必然的に国に属するものである。国の構成員たる国民は国の財政的経費を分任する義務を負う。従つて憲法第三〇条の主眼点は「法律の定めるところにより」にある。
その趣旨は国民は法律の定めるところによらなければ納税の義務を負わない、国民は法律の定めるところよりも多くも少くも税をとられない。このようにして納税義務の限界を明示することによつて国民の財産権を擁護せんとするにある。他の面から言えば税務官庁、裁判所の恣意的な法の解釈適用を阻止しようとするものであるかくて租税法律主義のもとでは税法規の厳格な解釈適用が要請されいわゆる類推拡張的な解釈適用は禁止される。従つて又そこに税法規の解釈に関して「疑わしきは国庫の利益に反して」という原理が成り立つ。制定法の解釈にあたつてその文言が不明確である場合にはその疑問は納税者の利益の方向に解決されねばならない。
二、原判決は法人税法第三一条が減価償却費の損金算入については確定した決算の存在を要求しておりこれを欠く場合は損金算入を認められないと判断した。しかしその立法趣旨の説明として企業内部の損益を第三者たる課税権者が認定することは適当でないし又可能でもないから一定の限界を定めるにあるとしている。
三、まさに一定の限界をきめることにある。租税債務は税法の定める一定の課税要件の充足があつた時成立する。税務官庁の行政行為は租税債務の内容の具体的な確認にすぎない。殊に申告納税制度のもとでは明白である。そうだとすると仮に法人の各決算期毎に確定した決算がなかつたとしても後日に至りこれを明確にし得るならば適正な課税は可能である。法人税法第三一条の存在は「国庫の利益に反して」納税者の利益の方向に解釈されねばならない。同条の存在により減価償却を認めないということは納税者の利益に反して納税者の財産を侵すことになり憲法第二九条に違反する解釈となる。
以上