最高裁判所第三小法廷 昭和52年(あ)750号 決定 1977年7月01日
本籍
富山県高岡市下山田一六三七番地
住居
同 射水郡大門町二口三〇二一番地
会社役員
浅野憐賢
大正四年一〇月八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五二年三月二九日名古屋高等裁判所金沢支部が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申告があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人島崎良夫の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顯 裁判官 環昌一)
○昭和五二年(あ)第七五〇号
上告趣意書
所得税法違反 浅野憐賢
右の者に対する頭書被告事件につき、名古屋高等裁判所金沢支部が言渡した判決に対し被告人より上告を申立てた理由は次の通りである。
昭和五二年五月四日
右弁護人 島崎良夫
最高裁判所
第三小法廷 御中
記
原審は、被告人に対し懲役一年四月(執行猶予付)及び罰金三、〇〇〇万円の第一審判決を維持し控訴棄却の判決を言渡したが、その罰金刑の量刑著しく重く苛酷にし正義に反するので、左の情状に鑑み、原判決を破棄の上更に減刑した軽い罰金刑に処せられたい。
一、犯罪事実を全面的に認めて居り改悔の情極めて顕著である。
二、体刑の前歴なく、真面目に生業に従事し、地方産業の発展に貢献して来て居る。
三、本件の捜査・裁判及び体刑の処罰により充分社会的制裁を受けていて、尚多額の罰金にて処断する必要は存しない。
四、本件脱税の動機は、不況時に備え、従業員の生活と自己の発展を守るため所得を備蓄しようとの意図に出たものであり、自己に於て遊興飲食等豪華なぜいたくな生活をしようという目的ではなかつた。
五、被告人は、極度に経費を切りつめ克苦勉励・勤検節約して生業に従事した結果、所得が異常に増大していて脱税所得は私生活面に全く使用されていない。
六、本件発覚後、堀税理士の適正な指導及び炭谷外次郎の監督の下に、正しい税申告を行つていて再犯の虞れは全くない。
七、脱税方法も幼稚にして、更に帳簿類の証拠も容易に発見され易くなつていて悪質なものではない。
八、本件当時、中小企業者は税負担を重圧と感じ脱税を普通とする社会世相であつた。
九、被告ら中小企業者に対する政府の保護育生は社会政策上不充分であり、本件誘発の原因をなしている。
一〇、被告人は多額の未払税額を誠意を以つて弁済に当り、残額については尚毎月二〇〇万円宛、金沢国税局に誠実に履行している。
一一、現在の被告人の資力にては、更に金三、〇〇〇万円の多額の罰金額を納付することは極めて困難且つ苦痛である。
一二、被告人をして事業に努力せしめるに障碍とならぬ程度の軽い罰金刑に処し、被告人を更生せしめることが社会政策上必要である。
以上