最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)589号 判決 1979年9月11日
上告人
王利鎬
右訴訟代理人
前田外茂雄
森川清一
被上告人
植田栄一
右訴訟代理人
猪野愈
三宅邦明
主文
被上告人の本訴請求中上告人に対し昭和三九年九月一四日以降別紙目録(一)記載の各土地につき被上告人が同目録(二)記載の仮登記に基づく本登記を経由するまでの期間について右土地の賃料相当額の金員の支払を求める請求を右本登記手続の完了を条件として認容した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
前項の被上告人の請求を棄却する。
上告人のその余の上告を棄却する。
訴訟の総費用は第一、二、三審を通じてこれを一〇分し、その一を被上告人の、その余を上告人の各負担とする。
理由
上告代理人前田外茂雄の上告理由三について
原審の確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が遅くとも別紙目録(一)記載の各土地(以下「本件土地」という。)につき同目録(二)記載の仮登記(以下「本件仮登記」という。)に基づく本登記手続を求める訴訟において勝訴の確定判決を得た時に本件土地の所有権を取得したものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
その余の上告理由について
原審の確定したところによれば、上告人は、訴外谷本猛の所有していた本件土地につき、被上告人が停止条件付代物弁済契約に基づく本件仮登記を経由したのちに谷本との間の代物弁済契約に基づいて所有権移転登記を経由し、遅くとも昭和三九年九月一四日までにこれを占有する至つたものであるところ、被上告人が本件土地の所有権を取得したのは、前記本登記手続請求訴訟の判決の確定した日であることが記録上明らかな昭和四二年四月八日であるというのである。以上の事実関係に基づき、原審は、被上告人において将来右本登記手続を完了することを条件として、被上告人が本件土地の所有権を取得する以前の昭和三九年九月一四日以降右本登記経由までの期間についても、上告人が被上告人に対し右土地の賃料相当額の損害金の支払義務を負うものと認めたのであるが、右は、被上告人の土地所有権取得の時期より以前の期間についてその損害金請求を認容する点ですでに是認し難いものであるのみならず、被上告人が右停止条件付代物弁済契約に基づき本件土地の所有権を取得し本件仮登記に基づく本登記を経由しても、これによつて、上告人は遡つて右本登記以前の権原に基づく土地占有につき被上告人に対し不法占有者としての損害賠償責任を負うものではないから、原審はこの点においても法令の解釈適用を誤つたものというべきであつて、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の限度において理由があり、原判決の右部分は破棄を免れず、更に第一審判決中前記期間につき上告人に賃料相当額の損害金の支払を命じた部分は取消を免れない。被上告人の前記期間についての損害金請求は、失当として棄却すべきものである。
よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 江里口清雄 高辻正己 環昌一)
目録
(一) 京都市右京区嵯峨天龍寺中島町六番
一 雑種地 一畝二〇歩
同所六番の四
一 雑種地 二畝八歩
(二) 昭和三九年三月九日京都市地方法務局嵯峨出張所受付第三四六一号所有権移転仮登記
上告代理人前田外茂雄の上告理由
一、本件土地家屋は現に登記を経た上、上告人の所有でありその占有中である。それに対し仮登記ある故か本登記前の損害金まで支払を命ずる原判決は間違つている。
二、右本登記には後順位者たる上告人の承諾した書面の提出を要し、右書面に替へるため被上告人は原判決主文一項の訴をしたのであろうが未だ右判決は確定していない。確定してその判決を登記所へ提出してこそ初めて登記が出来るので登記が出来ない内から代物弁済により所有権を取得したとする前掲の原判決は間違つている。即ち対抗力なき被上告人の所有権を基礎とする判決であり取消をまぬがれない。
三、原判決は主文一項(1)に於て本登記承諾を命じて居られるがこれは誤つている。
蓋し原判決は上告人の代位弁済を無効のものとし、その理由として評価価額で自分のものとする意思が債務者に伝はつた時に換価処分がなされたからとなし、目的不動産が合理的にその債務額との間に均衡が保たれている場合は所有権を帰属させる意思を債務者に表示すれば評価清算は完結したものと見るのが本当と説く。
而してその事実につき所有権移転本登記手続を求むる訴を起した事を挙げる。
然し乍ら上告人は取戻権消滅する為めには評価清算を済まし、それを相手方に通知しその結果をも相手方に通知し自今完全な所有者となつた事を知らさねばならないと信ずる。
前掲の訴訟は唯仮登記を基に相手方(釜本)に対し代物弁済成就による本登記を求むに過ぎず他の被告に対しては代物弁済成就を基礎にした丈で上掲条件を満たしたとは言へない。
依つて上掲受戻権消滅の論はあやまりであり取消さるべきもの。
四、尚他の控訴人に付いては、本登記を条件として明渡を命ぜられているので敢て上告をしない事とした。
以上の如く原判決は法理を無視したか理由不備の違法あり取消を免れない。