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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(あ)1553号 決定 1979年12月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人武田安紀彦の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、原判決が所論のような趣旨の判示をしていないことがその判文上明白であるから、前提を欠き、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同白石喜徳の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(高辻正己 江里口清雄 環昌一 横井大三)

弁護人武田安紀彦の上告趣意

第一点 <省略>

第二点 <前略>

四、収賄罪に刑法六五条第一項の適用を認めることについて

(一) 刑法六五条一項は「犯人の身分により構成す可き犯罪に加功したるときは、其身分なき者と雖も、なお共犯とする」と規定されている。この規定が真正身分犯についての共同正犯にも適用があるか否かについては学説の分れるところである。

従来判例は真正身分犯についてもその適用を認めるとされてきた。しかし、昭和五二年三月一六日言渡の最高裁判所第一小法廷の判決は、二裁判官の補足意見によりその適用を否定する意見が出されている。

(二) 真正身分犯についての共同正犯の場合に刑法六五条一項の適用を認めることは、実定法上の各個の犯罪構成要件が存在しないのに身分のない者を処罰することを認めることになり、罪刑法定主義の原則に反する。よつて、真正身分犯の共同正犯については、刑法六五条一項の適用は認めるべきではないと考える。

本件の収賄罪は真正身分犯である。被告人を収賄罪の共同正犯として刑法六五条一項の適用をした原判決は法令の適用を誤つている。

第三点 原判決は大審院の判例に違反する。

一、大審院判例大正七年九月二五日の判決は、横領罪にいう横領とは単に領得の意思があるのみでは足らず、領得の意思を実現する行為が外部から認識されなければならないとする。原判決は右判例に違反するものである。

二、原判決は被告人に横領罪が成立する理由として、秋元から被告人が受領した金員は、岡田の選挙資金であるから選挙の後始末に必要な期間と考えられる「昭和五〇年五月末ごろまでに入手した旨の連絡をせずに本件一〇〇万円を手元に保留している以上、その間において不法領得の意思で本件金員をことさらに抑留して、ほしいままにこれを自己の用途に供する目的で着服横領したものと認めざるを得ない」として横領罪の成立を認めている。しかしながら、原判決のあげる該理由では、被告人には刑法上評価の対象となる行為は未だなく、被告人の内心の問題に止まつており、前記判例の趣旨からして客観的に領得行為が外部に発現したとはいえない。又、五月末という時間の経過により被告人の何らの行為がなくとも自動的に横領罪が成立するとするのは、行為を処罰の対象とする刑法の大前提にも反するものである。原判決は不作為による横領罪を認めているのであろうか。

弁護人白石喜徳の上告趣旨<省略>

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