最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)54号 判決 1978年6月27日
上告人
有限会社火の国観光ホテル
右代表者
榊原秋義
右訴訟代理人
東敏雄
被上告人
火の国弁当有限会社
右代表者
佐藤仁
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人東敏雄の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(高辻正己 天野武一 江里口清雄 服部高顕 環昌一)
上告代理人東敏雄の上告理由
第一 原判決は上告人の「有限会社火の国観光ホテル」なる商号は熊本市内においては広く認識され周知性を有するものと認定した(原判決の援用に係る第一審判決八枚目表八行目から十行目まで)。
被上告人は「ニユー火の国ホテル」なる表示によつて旅館営業を行つていることも原判決認定の通りである。
第二 ところで、原判決は「火の国観光」と「ニユー火の国」又は「火の国ホテル」については、「火の国」なる呼称に、原告の営業表示として「周知著名性」がないと判断した。
第三 併しながら、一体上告人及び被上告人の営業の表示から「火の国」の呼称を除いて、両企業主体を特定判別出来るであろうか。熊本市内において、上告人の「火の国観光」ホテルなる商号が周知性を有することは原判決の確定するところであり、同一市内において、被上告人が「ニユー火の国ホテル」なる表示を用いて旅館営業をする場合に、一般利用者が両者の区別につき混同に陥る可能性のあることは経験則上明白と云わねばならない。それは、「火の国」なる同一呼称が原因であることも明白である。
第四 被上告人が「火の国ニユー観光ホテル」なる名称を用いてホテル営業を開始した昭和三八年当時は上告人以外に「火の国」なる呼称を用いてホテル営業を行つている業者は存在しなかつたのである。その後における営業規模の変化の如きは、被上告人が同一商号により十年に亘る訴訟の係属中、強引に営業を継続した結果発生した経済上の変化に過ぎないのであつて、このことにより上告人の商号である「火の国」なる呼称から「周知著名性」を奪うことはできないのである。
第五 原判決は法令の解釈を誤り、理由に齟齬あるに帰し破毀せらるべきものである。